人魂とカネ玉

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若いころ、軍需工場の帰りに自転車で通りかかったら、こっちの方からツウッと人魂が飛ぶんですよ。家に帰って「だれか死んだか」と聞いているうちに、しばらくして親戚から訃報(ふほう)が届いた。時刻をきくと人魂を見た時間と一致した。

(乞田 男 昭和生まれ)

 この話は、体験談である。人魂と火の玉とはそれほど明確には区別されてはおらず、話の中では、どちらも同じように使われている。人魂が飛ぶのを目撃した話はいくつかあって、その形態は、「頭は赤くて尾は青い」「グワーンと音を立てて飛ぶ」などといわれている。また、「一五歳まで見なければ一生見ない」とも伝えられている。人魂は、人が亡くなったときに飛ぶものであると考えられている。亡くなったばかりの体から寺へ飛ぶとか、墓から飛ぶという話が多く伝えられているが、次のような話もある。
 火の玉がふらふらと飛んできて、家の屋根で消えた。何だろうと不思議がっていたところ、しばらくしてその家の息子が南方で戦死したという知らせが届いた。ちょうど火の玉が飛んだ日であった。

(貝取 女 昭和生まれ)

 これは、遠方で亡くなった人の人魂が自分の家に飛んできたという話であるが、南野の大正生まれの方は戦争中に、出征していた当時のビルマで地面が光り輝く現象を見て不思議だと思ったことがあった。そのときはわからなかったが、戦争が終わって家に戻ってみると、親しくしていた女性が亡くなっていた。ちょうど、ビルマで不思議な光を見たころだったという。
 地面が光る話は、多摩市域にもあって、雨の降っているときに地面から少し上で青と赤が混ざったような色で燃える(貝取)とか墓の上でモコモコと青いものが燃える(乞田)などの話があるが、ほとんどの話者はこのような現象を土葬したあとで燐(りん)が燃えたものだと考えている。
 人魂ではなくカネ玉の話もある。
 昔、ある家にカネ玉が落ちたという。カネ玉は人魂や狐の火とは違って、ものすごいスピードで落ちてくるという。大きな音がしてある家に落ちたのだが、朝になって屋根をみても跡は残っているが何も見あたらなかった。しかし、カネ玉の落ちた家では、作物もよくとれ、財産家になったという。

(関戸 男)

 カネ玉とかカガミ玉とよばれるものは、人魂よりも大きくて真っ赤なものだという。また、落合では家族が亡くなったときにバラバラと屋敷内に祀ってある稲荷の祠のところへ落ちてきたという話もある。カネ玉を持っていると幸福になるともいわれている。