家やイッケで他の家と違う家例を伝えていることがある。たとえば、落合地区のあるイッケでは十二月に餅をつかず、元旦を過ぎてから餅つきをした。それが、ある年、もういいだろうと年末に餅つきをしたところ、家が潰れてしまったという。同じく落合地区のある家では、元日が辰の日にあたる年は正月に酒を飲んではいけないといった。そこの分家が、あるとき、元日が辰の日であったのにもかかわらず、酒を注いだ茶碗に箸を渡し、「ハシの下の水」だといって飲んだところ、火事になってしまったという。ほかに、生姜を作らない家(貝取・落合)や三月の餅をつかない家(関戸)、達磨を買わない家(関戸)、十二月一日のカワビタリのぼた餅を作らない家(落合)などがある。
また、和田地区では午後四時半ころに髪を洗わない習慣があった。昔、和田の殿様が吉祥院(乞田地区)で碁を打った帰り、沓切坂(くつきりざか)で賊に切り殺されてしまった。屋敷に知らせが届いたときに、奥方が洗髪中であって身仕度ができず、気が動転して屋敷裏の池に飛び込んでしまったという。そのため、この時間帯は洗髪をしないものだという。(『多摩市の町名』)
落合地区中組では、天神様の日である一月二十五日を長三郎の足切り日という。この日は、山に入ってはいかない日であったが、長三郎は掟(おきて)を破って山仕事に出た。すると竜巻が起こり、手元が狂って斧で足を切ってしまった。長三郎は傷がもとで亡くなり、以来、この日を長三郎の足切り日といって山へ入ることをかたく禁じるようになった。(『叢書5』)