いぼ、手足の痛み、腫れ、ちょっとしたやけどなどは、自分の家で治すことが多かった。身の回りにある食品や草木などを利用した民間薬の作り方や、願いを聞いてくれる神仏などが数多く伝承されている。
医師ではないが、まじないや薬草に詳しい人が治療をすることもあった。一ノ宮地区のある家では、昭和三十年代まで農業のかたわら、当主が乳腺炎などの治療を行ってきた。この家では前代の当主も施療をしており、すくなくとも明治年間から続いていたという。多摩市域ばかりではなく、近隣の村からも患者がたずねてきたが、礼金はとらず、奉仕であった。また、欲のあるような人間ではまじないの治療はできないといった。
民間薬についておもなものをあげてみよう。いぼを取るには、茄子(なす)のへたでこするといい、特に盆のときに作った茄子の馬の茄子でこするととれるといい、市域では広く伝承されている。乳が腫れたときは、前述のまじないのほか、水仙のタマ(球根)をすってうどん粉を混ぜ、練ったものが効く。これを和紙にのばして貼った。また、クチナシをくだいてうどん粉と練り合わせたものも腫れた部分の熱を取るという。
売薬で、「秋津の膏薬」という薬があり、よく効いた。秋津(東村山市)まで買いに行ったこともあったという。