七月下旬から八月にかけての土曜日・日曜日の夕方に多摩ニュータウン内の中高層住宅区域を通ると、あちこちの広場での賑やかな夏祭りに出会う。もちろん神社などどこにも見当らないのだが、子供神輿が練り歩いていたり山車が曳きまわされたりしており、しかも神輿や山車にかかわる人々が祭礼と染め抜いた揃いの法被(はっぴ)を着たりしていて、祭りの雰囲気は十分にある。広場には綿あめや焼きとうもろこし、氷水、焼きそばなどを売る屋台が並んでいる。そして不思議なことに、どの広場中央にもきまって櫓が設けられ、それを取巻いて、スピーカーのがんがん鳴らす歌にあわせて踊りの輪ができているというように、盆踊りの雰囲気でもある。実際に「夏祭り盆踊り大会」などと称している例もあり、神仏混淆おかまいなしであるが、これがニュータウン内の新しい夏祭りの実態で、ほとんどすべてが自治会主催である。
写真9-16 団地の夏祭り
写真9-17 こぐま保育園の夏祭り
多摩市域の神社には、元来夏祭りの伝統はほとんどなく、同時に市域では盆踊りも希薄であった。したがって、盆踊りと連動させた夏祭りは、ニュータウン完成後新たに移り住んだ人々によって支えられている全く新しい祭りだといえる。祭りとは称していても神社には拠り所を求めない、また盆踊りとは称していても巧みに月遅れの盆の日(八月十三日~十五日)をはずして行われる(盆には子ども連れで帰省する者が多いためという)これらイベントは、夏のニュータウンを彩る新しい祝祭であるが、祭りと称し盆踊りと称しているところに、日本人の伝承的心意を読みとることはできるだろう。
次に、具体的な事例を二つ挙げておこう。