2 年中行事

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 すでに述べた小正月のドンド焼き、七月末から八月にかけての夏祭りが、ニュータウン区域内にほとんど共通する地域の年中行事である。このほかに、クリスマス会や餅つき大会、花見、スポーツ大会などがみられる。

写真9-22 旧東永山小学校校庭での餅つき大会

 家々の年中行事は各様であるが、在来の家々では第六章に述べられているものを、まだ比較的丁寧に行っている家もある。新しく移住してきた家々でも、正月や盆はもちろん三月や五月の節供、七夕、クリスマスなどは家族で行い、また家族の誕生日の祝いや父の日・母の日などを重要な家の年中行事としている家が多い。
 次に、比較的丁寧に行事を執り行っているA家の例を次に示しておこう。A家は、昭和五十六年以降住宅・都市整備公団の分譲住宅に居住している、五〇歳代の夫婦と子供三人の五人家族である。
 この家の妻は、家庭での年中行事を大切にし、そのときどきの料理を食卓に出すように心がけている。ここでは当家の年中行事を月ごとに記していく。
[一月]正月三が日の朝は、雑煮を食べる。醤油と塩味の雑煮で、中に焼いた餅を入れ、下茹(したゆ)でした里芋、人参、大根を入れ、カマボコと三つ葉を飾る。
 初詣には、白山神社、諏訪神社や日野市の高幡不動などに行き、交通安全のお守りや破魔矢、絵馬などを買ってくる。子どもが小さなころは家族皆で出かけたが、最近は夫婦だけで行っている。買ってきた絵馬や破魔矢は、一階の和室の長押に飾っている。
 十一日の鏡開きには、おしるこをつくる。当家の家族は皆、甘い物が好きだという。
[二月]節分には、豆撒きをする。豆撒きはリビングから始め、窓を開けて各部屋ごとに「鬼は外、福は内」といいながら豆を撒いていく。以前は子どもが行っていたが、現在は夫が帰宅してから行っている。夫の帰りが遅いので、豆を撒く時間も遅くなってしまう。
[三月]女の子がいないので雛人形はないが、雛祭りには、手作りの雛人形を玄関やリビングのテレビの上に飾り、太巻き(のり巻き)をつくる。太巻きの芯には、ごぼう、人参、アナゴ、エビのそぼろなどを入れる。この太巻きは、雛祭りのほか、妻の誕生日にもつくられる。子どもも小さなころはよく食べたが、最近では夫とともに「寿司はやっぱりにぎりがよい」といい、太巻きをつくってもあまり喜ばないという。
 彼岸には、墓参りに行き、おはぎをつくる。あんこも自分で煮る。子どもが小さなころは、春と秋の彼岸に墓参りに行ったが、最近はあまり行かなくなってしまった。
[四月]桜の花が咲くと、友達と誘い合って永山高校の裏の山を越えて黒川(川崎市)まで歩いてお花見に行く。
[五月]五日の節供には、兜と人形、菖蒲(しょうぶ)の花をリビングに飾り、柏餅をつくる。夜は、菖蒲湯に入る。
[六月]虫干しをする。虫干しといってもかげ干しはしない。着物は和箪笥を開けて風を入れるが、洋服は冬物と夏物を入れ替えるときに風を通す程度である。
[七月]子どもが小学校の低学年のころまでは七夕飾りをつくった。当地に越してからは行っていないが、以前は、団地のベランダに七夕飾りを飾った。
[八月]盆には、墓参りに行く。
 彼岸には、墓参りに行って、おはぎをつくる。
[十月]十五夜のお月見には、団子やススキを飾る。これは、月が見えるように、一階の和室に飾っている。
[十二月]冬至には、かぼちゃを甘辛く煮て食べ、柚子(ゆず)湯に入る。
 クリスマスには、ケーキやローストチキンをつくる。
 暮れになると正月準備をする。近所の人達と中庭に集まって、正月飾りにするリースをつくる。一夜飾りはよくないので、二十六日ごろつくっている。リースの材料は、松ぼっくり、せんりょうの実、うらじろなどである。このリースは玄関のドアの外に飾っている。
 鏡餅は、玄関のげた箱の上かリビングのテレビの上に飾る。鏡餅はまん中にゆずり葉をはさみ上にミカンかダイダイをのせたもので、うらじろを敷いた上に飾る。リビングに飾った鏡餅は部屋が暖かいのですぐにかびてしまうという。
 大掃除には窓ふきをする。
 三十一日には、煮しめをつくる。里芋、ごぼう、人参、大根、コンニャク、昆布などを入れて煮る。
[そのほか]当家では、管理組合主催の行事にも参加している。また、家族の誕生日には、ケーキやにぎり寿司をつくっている。子どもが小さなころは、子どもの友達を招いて誕生会を開いた。なお、父の日や母の日には、子ども達が贈り物をしてくれる。
 この家で右のような行事が行われているのは、家庭をあずかる妻が料理好きであることに加え、行事を大切にしたいという妻の意識的な働きかけがあるからであろう。一般的に、子どもが小さなころは、比較的、子どもを中心にいろいろな行事が行われる傾向がある。これには、年中行事のいくつかが幼稚園の年間行事の中に取り入れられていることも影響していると思われる。しかし、子どもが大きくなるにつれて、家庭内の年中行事は減少していく。その半面で、誕生日、父の日、母の日、バレンタインデーなどの個人的なことを祝う行事は行われつづけるようである。また、近年では、スーパーマーケットなどで、七草のセットや豆撒きセット(大豆、鬼のお面などのセット)などが販売されるようになり、商業資本による行事への介入、それに伴って行事の画一化が進みつつある。