1930(昭和5)年、明治政府の宮内大臣であった田中光顕らにより、明治天皇や皇族の連光寺行幸・行啓を記念して「多摩聖蹟記念館」が建てられました。この建物の設計者の関根要太郎・蔵田周忠は、ヨーロッパの古代から近代までの多様な建築様式を取り入れた設計をしています。
設計にあたり、当時としては、最先端のデザインが採用されました。
1986(昭和61)年度に改修工事を行い、1987(昭和62)年4月12日にオープンし、運営を開始しました。同館は市の指定有形文化財であり、文化財として保護・保存を図るとともに、市民ギャラリーとして広く一般に開放しています。
2002(平成14)年11月28日付で、「東京都の特に景観上重要な歴史的建造物等」に選定されています。
また、DOCOMOMO Japanによる2021年度「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」の1つに選定されました。
館内の展示
●明治天皇騎馬像
ホール中央に明治天皇騎馬像があります。日本橋の「獅子・麒麟像」の制作者でも有名な作者の渡辺長男(1874~1952年)が田中光顕の依頼を受けて1930(昭和5)年に製作したものです。馬に乗った明治天皇は、1881(明治14)年の連光寺行幸をモデルに作られたといわれています。(明治天皇騎馬像(高さ3m25cm))
●堀田清治作「基礎工事」
この作品は、福井県出身の洋画家・堀田清治の作品です。堀田は、日展の文部大臣賞を受賞したこともあります。1930(昭和5)年頃に描かれたこの作品には、多摩聖蹟記念館建設の折り近在の有志の方々の勤労奉仕による基礎工事の様子を描いたと言われています。
●五賢人胸像(1967(昭和47)年)
五賢堂内に安置される本作品は、長崎県壱岐郡出身の彫刻家・小金丸幾久によるものです。向かって右から「木戸孝允像」、「岩倉具視像」、「三条実美像」、「大久保利通像」、「西郷隆盛像」の5体の胸像が置かれています。
五賢堂は、明治百年記念事業の一環として明治維新五賢堂建立委員会によってその建立が計画され、1968(昭和43)年11月3日に建立式典が行われました。銘板には、明治維新にあたり「新日本の建設に偉勲を樹てた」5人の功労を後世に伝えるために建てられた旨が記されています。
本作品は、五賢人に伊藤博文ではなく西郷隆盛を加えている点に特色があります。『多摩聖史』(財団法人多摩聖蹟記念会)には、「維新の大業は西郷南洲なくして語ることができない」との吉田茂のすすめにより、隆盛が加わったことが記されています。加えて、明治維新五賢堂建立委員会の委員長が岩倉具栄であったこともこれと無関係ではありません。具栄は、父方の曽祖父が岩倉具視で、母方の祖父が西郷従道(隆盛の弟)です。隆盛と親戚関係である具栄が委員長の地位にいたことは、隆盛を五賢人に加える後押しとなったと推察されています。顔貌表現については具栄のような近親者に確認、制作されたと考えられ、実際の容姿が反映されています。
常設展示・ギャラリー
旧多摩聖蹟記念館では、田中光顕が収集した幕末・維新期の掛軸・書状や、武士・公家・画家などによる作品を収蔵しており、その中から選んだものを常設展示として公開しています。又、個展・展覧会など多目的に利用できる展示スペースや、多摩市内で見られる植物写真の展示もあります。
施設概要
名称 | 旧多摩聖蹟記念館 |
所在地 | 多摩市連光寺5-1-1(部立桜ヶ丘公園内) |
所有者 | 多摩市 |
建設者 | 関根要太郎・蔵田周忠 |
工事請負者 | 大倉土木株式会社(現在の大成建設株式会社) |
建設年代 | 起工 1929(昭和4)年10月12日 竣工 1930(昭和5)年6月26日 |
建物面積 | 397.19㎡ |
建物高さ | 約11m |
構造 | 鉄筋コンクリート造 |
延べ工事人員 | 5、870人 |
施設内容 | ギャラリー(同廊部分約70㎡)喫茶サロン、厨房、事務室 |
文化財指定 | 1986 (昭和61)年6月24日付(市指定有形文化財) 東京都「特に景観上重要な歴史的建造物等」選定2002(平成14)年11月28日付) |
公開の有無 | 公開 |