起伏に富んだ多摩の丘陵地はアカマツやコナラを主体とした雑木林が続き、平坦な場所では畑が広がっていただけでなく、牛馬の餌となる草や屋根材となるススキを採る草地も広範囲に存在していました。こうした場所には、秋の七草で知られるキキョウやオミナエシをはじめ、多様な草花が四季を彩ります。丘に幾重にも刻まれた谷筋では谷戸田が営まれ、周辺には池沼や湿地、よく刈り込まれた芝地などが広がり、樹林地や採草地では見られない水湿生植物や、コケリンドウ、オカオグルマといった、頻繁な草刈りの合間をぬって生き抜くことのできる野草などが生育していました。また、多摩川に面した肥沃な沖積低地でも畑や田んぼが営まれていましたが、強い陽光にさらされる一方、しばしば氾濫による出水に見舞われる河川敷では、こうした環境に適応して生活することのできるミゾコウジュやカワラサイコ、ヤナギ類などの草木が河川植生を独特のものにしていました。(内野秀重)
多摩よこやまの道の雑木林 2016(平成28)年9月6日
[内野秀重氏撮影]
農山村時代の多摩の里山の面影を今に伝えるコナラの雑木林。
左:オキナグサ(キンポウゲ科) 1966(昭和41)年4月
[畔上能力氏撮影/『多摩市史叢書(8)多摩市の自然』より]
1950年前後に急速に衰退した野草で、「ビンタボ」の名で親しまれてきた。撮影地永山。
右:群生するノアザミ(キク科) 2017(平成29)年5月18日
[内野秀重氏撮影]
草原性植物の多くが環境変化で失われたなか、今も見ることのできるアザミの一種。撮影地山王下。
ひっそりと生きるバアソブ(キキョウ科) 2019(令和元)年8月11日
[内野秀重氏撮影]
湿った林縁に生えるつる性植物で、市街地に残された緑地に残存している。撮影地永山。
大輪の花ヤマユリ(ユリ科) 1989(平成元)年7月31日
[宮澤善次郎氏撮影]
鱗茎(りんけい)は食用となり、夏の里山を代表する花として昔から愛されてきた。撮影地和田。
タマノホシザクラ(バラ科) 2019(平成31)年3月28日
[内野秀重氏撮影]
ニュータウン開発の荒波を生き抜いてきた多摩丘陵に固有の貴重な桜。撮影地山王下。
カワラサイコ(バラ科) 2009(平成21)年6月9日
[公益財団法人多摩市文化振興財団撮影]
礫質の河原に生える多年草で、低地の多摩川沿いにわずかながら現存する。撮影地関戸。