昭和40年代中頃以降になると、多摩ニュータウン開発などの開発事業も本格化し、市内の農村社会は生活が急激に近代化しました。それまで地域の文化遺産として受け継げられてきた住居形式も大きく変わり、今までの伝統的な住居は取り壊されて新住宅として生まれ変わっていきました。市内には、江戸時代以降に建築された戦前の茅葺屋根の伝統民家は、1975(昭和50)年度には、70棟程が残っていました。しかし、現在、残っている民家は、鶴牧の川井家住宅主屋のほか数棟となってしまいました。そのため、茅葺屋根の伝統民家を後世に伝え残そうと、3棟の古民家が復元移築、保存、活用され、さらに、2020(令和2)年度には、多摩市では初めての国登録有形文化財に川井家住宅主屋と旧川井家住宅土蔵が登録されました。(山﨑和巳)
旧有山家住宅【市指定有形文化財】
[一本杉公園内/多摩市教育委員会撮影]
江戸時代・18世紀前半の建物。市内でも古い時期の民家であり、できる限り原形に忠実に、1988(昭和63)年に復元した。
旧加藤家住宅
[一本杉公園内/多摩市教育委員会撮影]
江戸時代・18世紀後半の建物。当住宅は古民家の特色を生かした、カマドを利用した古民家体験、会合などのできる場所として貸し出している。有山家住宅と同時期の1988(昭和63)年復元。
旧富澤家住宅
[多摩中央公園内/多摩市教育委員会撮影]
江戸時代・18世紀中頃の建物。連光寺の世襲名主、富澤家の主屋。幕末には新選組の近藤勇、土方歳三などが出稽古に訪れ、1881(明治14)年には、明治天皇の連光寺への行幸の際、行在所(あんざいしょ)となり、以来皇族なども数多く訪れている。多摩市で唯一式台付き玄関のある由緒ある古民家である。奥の間など一部を茶会や会合などに活用できるように貸し出している。1993(平成5)年復元。
川井家住宅主屋【国登録有形文化財】
[鶴牧西公園内/多摩市教育委員会撮影]
建築は明治初頭と推定される。屋根裏に蚕室がある、多摩市を代表する養蚕民家。
川井家住宅主屋、土蔵とシダレザクラ(市指定天然記念物)の景観
[鶴牧西公園内/多摩市教育委員会撮影]
川井家住宅主屋と土蔵が、園内のシダレザクラと一体となって元の場所にたたずみ、市内では希少な多摩の原風景を残した場所。