市内には、古くから地域ごとに神社や寺院があって、人々の信仰を集めています。寺院は、現在15か寺(うち4か寺は戦後)ありますが、在来の住民は、檀家として先祖をまつり、葬祭を執(と)り行(おこな)ってきました。神社も地区ごとにあって、ニュータウン開発以前は地区住民のほとんどが氏子になっていました。
その他にも、地域ごとに様々な講がおこなわれたり、石仏が信仰されています。市内で広くおこなわれてきた講の一つに、「念仏講」があります。これは、女性が中心となって「南無阿弥陀仏」などの念仏や和讃を唱える行事で、各所でおこなわれてきました。また「庚申講」も江戸時代から広くおこなわれていて、記念に造塔された庚申塔は市内に38基確認されています。
その他、不動明王をまつる不動講、関戸にある観音寺の観音講などがあります。また、武州御嶽・大山・榛名・秋葉・伊勢・富士・三峰など、様々な聖地や社寺へ代理人に参詣させる「代参講」も市内各所でおこなわれてきました。(浜田弘明)
吉祥院の外観 平成前期
[『多摩市史 民俗編』より]
吉祥院は、乞田地区にある真言宗智山派の寺で、戦時中は学童疎開の受け入れをしていた。
吉祥院の花祭り 平成前期
[『多摩市史 民俗編』より]
花祭りは、釈迦の誕生日とされる4月8日におこなわれる行事で、参詣者は釈迦の誕生仏に甘茶をかけ、一口飲むと病気に効くとされる。
諏訪神社の外観 年代不詳
[『多摩市史 民俗編』より]
諏訪神社は、馬引沢地区の氏神で、建御名方命(たけみなかたのみこと)などを祭神とする。かつての社殿は、茅葺きであった。
諏訪神社の祭礼 平成前期
[『多摩市史 民俗編』より]
本来の祭礼日は、8月27日であるが、平成期からは、この日に近い日曜日が祭礼日とされ、神輿・お囃子・盆踊りなど催される。
東寺方の念仏講 1976(昭和51)年9月下旬
[多摩市所蔵]
念仏講は、市内全域で確認され、女性が主体となっておこなう講である。東寺方地区には、かつて4つの講中があつた。
富士講碑 2009(平成21)年
[石仏調査会撮影]
貝取地区にあるもので、1880(明治13)年の銘があるが、現在では講の伝承が聞かれない碑である。
馬引沢の御嶽講 平成前期
[『多摩市史 民俗編』より]
「武州御嶽講」は、東京都青梅市の御嶽神社を本社とし、盗難除けの神として知られ、講の代表者が代参の形で参詣する。