1976(昭和51)年1月10日早朝、妻が大声で何か叫んでいる。寝不足気味の頭にはすぐにその内容が入ってこない。やがて布団を引っぺがされてようやく目覚めた私に、妻は興奮気味に「当たったわよ!」と朝刊をかざす。以前から申し込んでいた公営住宅の当選発表であった。飛び上がって喜んだ。練馬区の狭いアパートに住んでいた我々は、年に何度かある住宅の公募に応募し落選ばかりを重ねていた。今回は多摩ニュータウンに建設された住宅で、その倍率は10倍であった。前年には子どもも生まれ、広く子育てに適した地を求めていたのだ。3月28日に落合団地に入居した。ベランダから南を望むと広い中庭は芝張り作業の最中であり、歩道脇には植樹用に掘った穴が並んでいた。そして続々と入居する家族があり、ここでいよいよ新生活が始まるという活気があふれていた。通勤にはいささか時間がかかるようになったが、新しくて便利な生活が予感され広い大地と青空がまぶしかった。(岩本純一)