おしゃもじさま ―唐木田物語より―

 
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『おしゃもじさま』表紙

『おしゃもじさま』




『おしゃもじさま』本文1枚目

むかし このむらの とよぐちやまに、おおきなきの しげった もりがあった。
もりのなかには、いしがみさまを まつった ほこらがあった。
その もりの はずれに、ひとりの おばあさんと あやという ちいさな おんなのこが すんでいた。




『おしゃもじさま』本文2枚目

あやのおかあさんは あやが うまれて すぐに しんでしまい、おじいさんと おとうさんは とおくのくにの いくさに いったきり かえって こなかった。
そのころは さくもつが よくみのらないとしが つづいて、むらのひとびとは まずしいくらしを していた。
おばあさんは せっせとはたらき、あやも いっしょうけんめい てつだった。
でも、ふたりのくらしは たべものにも こまる ありさまだった。




『おしゃもじさま』本文3枚目

それでも おばあさんは ごはんを たくたびに いしがみさまへの、すこしばかりの おそなえを わすれなかった。
いしがみさまは むかしから おばあさんのいえの まもりがみだった。
あるひ、あやは おばあさんに たずねた。
「ばあちゃんは いつも いしがみさまに なにを おねがいしているの。」
「あやが はやく おおきくなるように、それと じいちゃんと とうちゃんが はやく かえってくるように おねがいしているんだよ。」
と、おばあさんは いった。




『おしゃもじさま』本文4枚目

あるとしのこと、このむらに わるい やまいが はやった。
あやも たかい ねつをだして、いくにちも いくにちも ねこんでしまった。
おばあさんは よるもねないで かんびょうしたが、なかなか なおらなかった。




『おしゃもじさま』本文5枚目

おばあさんは とうとう つかれきって ねむってしまった。
すると、ゆめのなかに おじいさんと あやのおとうさん、おかあさんが あらわれて、
「ばあさんや、わしらは あのよという とおくのくにに きてしまい、もう いえには かえることが できないんだよ。
 おまえたち ふたりには くろうをかけて すまないなあ。
 あやが はやく よくなるように、あすのあさ いしがみさまに おねがいしておいで。」




『おしゃもじさま』本文6枚目

つぎのあさ、おばあさんは いそいで いしがみさまに ゆき、あやの やまいのことを おねがいした。
すると、
「ここにある こめを もってかえって あやに たべさせるがよい。」
という、いしがみさまの こえがした。




『おしゃもじさま』本文7枚目

そこで、さっそく おばあさんは その おこめで ごはんをたいて あやに たべさせようとした。
けれども あやは たかいねつで、くるしくて たべるげんきもなかった。
「あや、このごはんは いしがみさまが くださった おこめで たいたんだよ。」
おばあさんに いわれて やっと ひとくちたべた あやは、くるしさが ほんのすこし らくになったような きがした。




『おしゃもじさま』本文8枚目

もうひとくち たべると、また すこし らくになった。
もうひとくち もうひとくち と たべるうち、とうとう ぜんぶ たべてしまった。




『おしゃもじさま』本文9枚目

あやが たべおわったとたん、おばあさんは たいへんな ことに きがついた。
「あっ、いしがみさまの おそなえを わすれていた。」
あわてて おかまを のぞいてみると、もう おこげも のこっていない。
おしゃもじに、ごはんつぶが すこし ついているだけ。




『おしゃもじさま』本文10枚目

「こまった。もうしわけない。」
と おばあさんは おおいそぎで いしがみさまの ところに いって、その おしゃもじを おそなえした。
すると、あれほど くるしんでいた あやは みるみる ねつが さがって、そのひのうちに おきだせるように なった。
そして、あくるひには すっかり げんきになって はたけしごとを てつだえるように なった。




『おしゃもじさま』本文11枚目

この はなしは たちまち むらじゅうに しれわたり、びょうにんのいる うちでは、みな いしがみさまに おしゃもじを おそなえした。
すると、どこのうちの びょうにんも ねつが さがって、すっかり げんきになった ということだ。
それからというもの むらの ひとびとは、いしがみさまを おしゃもじさまと よぶようになった。




『おしゃもじさま』本文12枚目
『おしゃもじさま』裏表紙

おしゃもじさま―唐木田物語より―
お話 横倉鋭之助
文  多摩市立図書館
絵  遠藤夕力子