乍恐以書付御訴訟申上候(名主・忠左衛門我が侭にて、御林の松材木を刈り取るなど迷惑につき訴訟の旨)

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【解読文】

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   乍恐以書付御訴訟申上候
      武州柚木領小野路村
       同国同村  訴訟人 惣百姓
             相手  忠左衛門
一武州柚木領小野路村惣百姓今度御訴訟申上候
 儀者名主忠左衛門数年我儘仕候故惣百姓共迷
 惑申候依之右之段々名主仕方共荒増書
 上申候間御穿鑿被遊被下候ハヽ難有奉存候
一当村御入国以来冨士山与申御林
 壱ヶ所御座候先々御代官様より御当代迄
 御林大切被遊枯枝成共百姓取不申候様ニ堅被
 為仰付候然所ニ去未春名主御林ニ而松材
 木大分伐取堰々橋々江相渡シ其外長サ五六間
 目通三四尺廻リ松材木伐取百姓人足ニ而引
 取名主本家ニ角家座敷継出シ御用木ニ而我
 儘に造作仕御用之外郷人足名主方へ大分
 被召仕惣百姓困窮仕候御事
 右之堰人足書上仕扶持方願之御訴
 訟申上候得者御慈悲ヲ以扶持方被下候所ニ百
 姓方江者壱粒茂割渡シ不申其外荏大豆
 之代永被下候由ニ御座候得共百姓方江者割
 渡無之年々取込仕候御事
一近郷之名主浅草御蔵江御城米納申候ニ付
 従御 公儀様舟銭被下候所ニ近郷之
 名主中百姓方江舟銭割渡申候忠左衛門儀ハ
 一切割渡不申候御事
一郷御蔵屋敷之儀惣百姓見立ヲ以庄
 兵衛与申者之地内山川抱成程火事盗人
 共ニ用心能場所御座候ニ付為地代玄米
 四斗宛跡々より出シ竹木持寄御蔵立置
 候処ニ名主我儘巳ノ年右之郷蔵府
 中領売蔵代金も名主引込仕其故困
 窮之百姓江又候竹木持寄名主居家之
 岸ニ四百人余之人足ヲかけ自分之蔵
 同前相立右之玄米ニ壱倍之増ヲ
 かけ撰米八斗宛毎年取被申候ニ付
 弥百姓迷惑仕候勿論地坪儀者先御
 蔵地坪与同前相見江申候御事
一五年以前辰之トシ名主江戸ニ而乗鞍買
 其代金惣百姓江割掛何方江参候ニ茂百姓
 人馬共ニ呼寄二三人宛供召連何方へも参候
 ニ付百姓弥難儀仕候御事
一御年貢御割付百姓ニ者毎年拝見
 不致其上米之御皆済請取手形出シ
 不申候故御年貢何分ニ取立被申候哉一
 円不存候御事
一百姓相果其子若年ニ候得者跡式等親
 類縁者ニ茂為構不申其百姓之跡潰シ
 田畑山屋敷名主支配仕尤御高儀者
 名主持添伝馬諸役等惣百姓ニ割掛
 無異儀為相勤申候かやう成我儘当
 分者不及申候上跡々より数年御座候ニ付
 当人者勿論其一門等迄迷惑仕候此儀
 少茂偽り無御座候御事
一名主庭前坪構色々草木植其上春
 中筑山つき泉水ヲ堀玉川越府中
 迄三里之処にて大石水郷中大分
 之人足ヲかけ地車にて二日ニ引取申付
 右之筑山ニ立置申候御田地仕付之
 砌惣百姓大分被仕此段迷惑仕
 此外名主我儘之儀数多ニ御座候得者
 御紙面ニ者難及候段々目録書致
 差上申度奉願候御事
右之條々名主年来我儘被致候ニ付
大小之百姓困窮仕候故無拠御訴
訟申上候哀御慈悲ヲ以名主忠左衛門
被召出御穿鑿被遊被下候ハヽ偏ニ
 惣百姓御助与難有可奉存候
               以上
 元禄五年     武州柚木領小野路村
  壬申八月          半六 印
                惣百姓
    御代官様
 

 
【読み下し文】

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  (おそ)(なが)()()けを(もつ)()訴訟(そしよう)(もう)()(そうろう)
     武州(ぶしゆう)柚木領(ゆぎりよう)小野路村(おのじむら)
      同国(どうこく)同村(どうそん)  訴訟人(そしようにん) 惣百姓(そうびやくしよう)
               相手(あいて)  忠左衛門(ちゆうざえもん)
(ひとつ)武州(ぶしゆう)柚木領(ゆぎりよう)小野路村(おのじむら)惣百姓(そうびやくしよう)今度(このたび)()訴訟(そしよう)(もう)()(そうろう)()は、名主(なぬし)
忠左衛門(ちゆうざえもん)数年(すうねん)我儘(わがまま)(つかまつ)(そうろう)(ゆえ)惣百姓(そうびやくしよう)(ども)迷惑(めいわく)(もう)(そうろう)()れに()り、(みぎ)
段々(だんだん)名主(なぬし)仕方(しかた)(とも)荒増(あらまし)()き上()(もう)(そうろう)(あいだ)()穿鑿(せんさく)(あそば)され(くだ)され(そうら)()
ば、()(がた)(ぞん)(たてまつ)(そうろう)
(ひとつ)当村(とうそん)()入国(にゆうこく)以来(いらい)冨士山(ふじやま)(もう)()(はやし)壱ヶ所(いつかしよ)()()(そうろう)先々(せんせん)()代官様(だいかんさま)
()当代(とうだい)(まで)()(はやし)大切(たいせつ)(あそば)され、枯枝(かれえだ)(なり)(とも)百姓(ひやくしよう)()(もう)さず(そうろう)(よう)に、(かた)
(おお)(つけ)させられ(そうろう)(しか)(ところ)に、()(ひつじ)(はる)名主(なぬし)()(はやし)にて(まつ)材木(ざいもく)
大分(だいぶ)()()り、堰々(せきぜき)橋々(はしばし)相渡(あいわた)し、()(ほか)(なが)()(ろく)間目(かんめ)(とおり)(さん)四尺(よんしやく)(まわ)
(まつ)材木(ざいもく)()()り、百姓(ひやくしよう)人足(にんそく)にて()()り、名主(なぬし)本家(ほんけ)角家(かどや)座敷(ざしき)()()
し、()用木(ようぼく)にて我儘(わがまま)造作(ぞうさく)(つかまつ)り、御用(ごよう)(ほか)郷人(ごうにん)(そく)名主(なぬし)(かた)大分(だいぶ)()(つかまつ)
られ、惣百姓(そうびやくしよう)困窮(こんきゆう)(つかまつ)(そうろう)御事(おんこと)
(みぎ)(せき)人足(にんそく)()()(つかまつ)り、扶持方(ふちかた)(ねが)いの()訴訟(そしよう)(もう)()(そうら)()ば、()
慈悲(じひ)(もつ)扶持方(ふちかた)(くだ)され(そうろう)(ところ)に、百姓(ひやくしよう)(かた)えは壱粒(ひとつぶ)()(わた)(もう)さず、
()(ほか)()大豆(だいず)代永(だいえい)(くだ)され(そうろう)(よし)御座(ござ)(そうら)()(ども)百姓(ひやくしよう)(かた)えは()(わた)
()()く、年々(ねんねん)()()(つかまつ)(そうろう)御事(おんこと)
(ひとつ)近郷(きんごう)名主(なぬし)浅草(あさくさ)御蔵(おくら)()城米(じようまい)(おさ)(もう)(そうろう)(つき)()公儀(こうぎ)(さま)()舟銭(ふなせん)(くだ)
され(そうろう)(ところ)に、近郷(きんごう)名主(なぬし)(ちゆう)百姓(ひやくしよう)(かた)舟銭(ふなせん)()(わた)(もう)(そうろう)忠左(ちゆうざ)
衛門(えもん)()一切(いつさい)()(わた)(もう)さず(そうろう)御事(おんこと)
(ひとつ)(ごう)()蔵屋敷(くらやしき)()惣百姓(そうびやくしよう)見立(みた)てを(もつ)て、庄兵衛(しようべえ)(もう)(もの)地内(ちない)山川(やまかわ)
(かかえ)成程(なるほど)火事(かじ)盗人(ぬすつと)(ども)用心(ようじん)()場所(ばしよ)御座(ござ)(そうろう)()き、地代(ちだい)として玄米(げんまい)
四斗(よんと)(ずつ)跡々(あとあと)より()し、竹木(ちくぼく)()()御蔵(おくら)()()(そうろう)(ところ)に、名主(なぬし)我儘(わがまま)()
(とし)(みぎ)郷蔵(ごうぐら)府中(ふちゆう)(りよう)()り、蔵代金(くらだいきん)名主(なぬし)()()(つかまつ)り、()(ゆえ)困窮(こんきゆう)
百姓(ひやくしよう)(また)(ぞろ)竹木(ちくぼく)()()名主(なぬし)居家(きよか)(きし)四百人(よんひやくにん)(あま)りの人足(にんそく)をかけ、
自分(じぶん)(くら)同前(どうぜん)相立(あいた)て、(みぎ)玄米(げんまい)壱倍(いちばい)(まし)をかけ、撰米(せんまい)八斗(はつと)(ずつ)毎年(まいとし)()(もう)
され(そうろう)(つき)(いよいよ)百姓(ひやくしよう)迷惑(めいわく)(つかまつ)(そうろう)勿論(もちろん)地坪(じつぼ)()(さき)御蔵(おくら)地坪(じつぼ)
同前(どうぜん)相見(あいみ)(もう)(そうろう)御事(おんこと)
(ひとつ)五年(ごねん)以前(いぜん)(たつ)のとし、名主(なぬし)江戸(えど)にて乗鞍(のりくら)()い、()代金(だいきん)惣百姓(そうびやくしよう)()()
け、何方(いずかた)へも(まい)何方(いずかた)(まい)(そうろう)にも百姓(ひやくしよう)人馬(じんば)(とも)()()せ、()三人(さんにん)(ずつ)(とも)()()
れ、(そうろう)(つき)百姓(ひやくしよう)(いよいよ)難儀(なんぎ)(つかまつ)(そうろう)御事(おんこと)
(ひとつ)()年貢(ねんぐ)(おん)割付(わりつけ)百姓(ひやくしよう)には毎年(まいとし)拝見(はいけん)(いた)さず、()(うえ)(こめ)()皆済(かいさい)()()
手形(てがた)()(もう)さず(そうろう)(ゆえ)()年貢(ねんぐ)何分(なにぶん)()()(もう)され(そうろう)()一円(いちえん)(ぞん)ぜず(そうろう)御事(おんこと)
(ひとつ)百姓(ひやくしよう)相果(あいは)て、()()若年(じやくねん)(そうら)()ば、跡式(あとしき)(など)親類(しんるい)縁者(えんじや)にも(かま)えさせ(もう)
さず、()百姓(ひやくしよう)跡潰(あとつぶ)し、田畑山(でんぱたやま)屋敷(やしき)名主(なぬし)支配(しはい)(つかまつ)り、(もつと)()(たか)()
名主(なぬし)()()え、伝馬(てんま)諸役(しよやく)(など)惣百姓(そうびやくしよう)()()異儀(いぎ)()相勤(あいつと)めさせ(もう)
(そうろう)、かよう()我儘(わがまま)当分(とうぶん)(もう)すに(およ)ばず(そうろう)(うえ)跡々(あとあと)より数年(すうねん)御座(ござ)(そうろう)
()き、当人(とうにん)勿論(もちろん)()一門(いちもん)(など)(まで)迷惑(めいわく)(つかまつ)(そうろう)()()(すこし)(いつわ)()
()()(そうろう)御事(おんこと)
(ひとつ)名主(なぬし)庭前(にわさき)(つぼ)(かまえ)色々(いろいろ)草木(そうもく)()え、()(うえ)春中(はるちゆう)筑山(つきやま)つき泉水(せんすい)()り、玉川(たまがわ)()
え、府中(ふちゆう)(まで)三里(さんり)(ところ)にて大石水(だいせきすい)郷中(ごうちゆう)大分(だいぶ)人足(にんそく)をかけ、地車(じぐるま)にて二日(ふつか)
()()(もう)すに(つき)(みぎ)筑山(つきやま)()()(もう)(そうろう)()田地(でんち)仕付(しつけ)(みぎり)(そう)
百姓(びやくしよう)大分(だいぶ)(つかまつ)らせ、()(だん)迷惑(めいわく)(つかまつ)り、()(ほか)名主(なぬし)我儘(わがまま)()数多(あまた)御座(ござ)
(そうら)()ば、()紙面(しめん)には(およ)(がた)(そうろう)段々(だんだん)目録(もくろく)(がき)(いた)し、()()(もう)(たく)(ねが)
(たてまつ)(そうろう)御事(おんこと)
(みぎ)条々(じようじよう)名主(なぬし)年来(ねんらい)我儘(わがまま)(いた)され(そうろう)(つき)大小(だいしよう)百姓(ひやくしよう)困窮(こんきゆう)(つかまつ)(そうろう)(ゆえ)
拠無(よんどころな)()訴訟(そしよう)(もう)()(そうろう)、これに()()慈悲(じひ)(もつ)て、名主(なぬし)忠左衛門(ちゆうざえもん)()
()し、()穿鑿(ごせんさく)(あそば)され(くだ)され(そうら)()ば、(ひと)えに惣百姓(そうびやくしよう)()(たす)けと()(がた)(ぞん)
(たてまつ)るべく(そうろう)以上(いじよう)
元禄五年     武州柚木領小野路村
 壬申(みずのえさる)八月          半六 印
               惣百姓
   御代官様