Ⅱ.瓢のある風景

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 瓢(ひさご)は、古くから容器あるいは食生活の中で使用されてきました。瓢は酒器としてまた、ふくべは干瓢としてくらしの中にありました。この庶民哲学の中から優れた芸術が生まれました。
 瓢(ひさご)は外形が独特なため絵画を中心にいろいろな題材として取り上げられました。このことは、瓢の形のおもしろさに取材した「瓢鮎図」あるいは「大津絵」があります。もう一つは、ふくべの果肉を割き長い紐状として竹竿に干す風景に取材した「東海道五十三次・水口」あるいは「北斎漫画・甲州」がありますが、ともに画題として絵心を誘うのかも知れません。
 江戸時代の中頃になると一般大衆にも絵がもてはやされ、いままでの「肉筆画」から木版により多量に描ける「刷物」が人々の間に普及しました。「東海道五十三次」「北斎漫画」は木版一枚刷の絵として製作されたものです。
 今回、参考資料として紹介します国宝「夕顔棚納涼図」は、久隅守景が木下長嘯子の和歌に取材した庶民哲学の最高傑作を残しています。
 ここでは、特にふくべを画題として描いた風景を集め紹介していきます。
 
9.和漢三才図絵・巻100(寺島良安編)
江戸時代 18世紀 全105巻
東京都立中央図書館蔵

 
参考資料
夕顔棚納涼図(久隅守景筆)
二曲一隻 紙本淡彩
縦 149.1 横 165.0
江戸時代 17世紀
東京国立博物館蔵

 初秋の頃でしょうか、中空には満月が外隅で浮き出され、夕顔のたわわに実る棚の下では、粗い莚を敷いて農夫の一家が夕涼みをしています。淡墨とわずかに施された淡彩で処理された画面からは、爽やかに澄んだ空気の肌あいとともに、日々の慎ましい生活にこそ至福があるという、庶民の哲学さえ感じられます。
 
 
10.日本山海名物図絵・巻2
平瀬徹斎著
長谷川光信画
藤江四郎兵衛彫
江戸時代 18世紀 全5巻
東京都立中央図書館蔵

 
 各地の物産やその製法を簡潔な説明と写実な挿絵で紹介したものです。近世の産業技術上重要な文献です。「巻之二」において木津かんぴょうの有様を精緻に写しています。
 
 
11.北斎漫画・13編(葛飾北斎画)
江戸時代 19世紀 全15巻
東京都立中央図書館蔵

 
 甲州かんぴょうの有様を、北斎は、「十三編」において精緻に描写しています。画家でこのような情景をしかもこれほど丁寧に描いた人は他にありません。人間もよく描けています。おそらく旅の途中で見かけた情景でしょうが、実によく観察して写生しています。作者の働く人々に対する愛情が感じられます。
 
 
12.東海道五十三次・水口
(安藤広重 筆)
江戸時代 19世紀
株式会社ヤマケ蔵

 
 水口かんぴょうのひなびた風俗が紹介されています。夕顔の実の果肉を細く薄く長く割き、天日に干して保存食とするもので女の仕事なのでしょう。一家の婦女子が総出で余念のない様子がうかがえます。