Ⅴ.瓢と生業

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干瓢とは
 干瓢は「ユウガオ」(学名“Lagenaria siceraria Standley var.hispida Hara”)「フクベ」(学名“Lagenaria siceraria Standley var.depressa Hara”)(ウリ科)の果肉を幅約2~3センチ内外の紐状に削って乾燥させた食品です。「ユウガオ」「フクベ」はウリ科のヒョウタンと近縁の種で、祖先種は西アフリカまたは熱帯アジア原産といわれています。なお、ヒルガオ科のヨルガオを俗にユウガオとよぶことがありますが、本種とはまったくの別種です。
 干瓢は、カルシュウムを多く含み消化の良い食品で寿司などに利用されています。現在では栃木県が生産高日本一で、全国の約90%を占めており栃木県の代表的な特産物となっています。主産地は、壬生町、石橋町、上三川町など県中南部の11市町の洪積層火山灰性酸性土壌の畑作地で、この主産地では、米に次ぐ重要な作物となっています。
 また、「ユウガオ」「フクベ」の実は、成熟すると外皮が硬くなるため中身をくりぬいて、乾燥させ「ふくべ細工」と称した炭入れとして重宝されました。現在では、民芸ブームを反映して奇抜な顔に彩色されたかべかけなど多くの民芸品として加工され、観光みやげになっています。
 
干瓢生産
 干瓢は製品として出荷するまでの工程として「干瓢栽培」と収穫後の「製剥(干瓢むき)」の二つに大別されます。ここでは、干瓢栽培について紹介していきます。
 干瓢栽培は、2月上旬の床土消毒から始まり、施肥の肥料成分は基肥2回と追肥の計3回行なわれます。2月下旬の種子消毒、3月中旬から4月中旬までの育苗期間4月下旬の定植とになります。4月下旬の定植では、麦の収穫後速やかに受粉作業に入れるように麦の間に植えます。5月上旬からは薬剤散布、6月は干場作成(ハデ作り)となります。これも現実的には、生産農家は限定されるため、干場はビニールハウス内での火力、風力乾燥としてセットされているため、特に干場を確保することはありません。6月中旬に人工受粉(花合わせ)を開始し、7月上旬からははやくも収穫となります。収穫時期は9月下旬までおよびます。この時期あわせて、干瓢むき作業もおこなわれます。
 
58.皮ムキ 当館蔵

 
干瓢むき風景 (粕尾芳一郎氏宅)

 
 
かんぴょうむき機の移り変わり

 ここでは、「製剥(干瓢むき)」について紹介していきます。
 干瓢の収穫は夕方の人工受粉(花合せ)時に行なわれ、午前2時ごろより収穫した「ユウガオ」「フクベ」の実は電動のかんぴょう鉋(電動式丸むき機)によって大量且つ迅速に処理され日の出とともに干されます。干瓢むき機の移り変わりは、作付けの拡大や収穫量の増加は干瓢むき機の発明・改良が大きく貢献してきました。移り変わりを簡単にふりかえって見ると、江戸時代は包丁を用いた手むきであったが、その後手カンナが考案され上図にみられる変遷を経て、現在では動力式の丸むき機と変わっていきました。
 
59.手カンナ 当館蔵

 
手カンナ使用風景

 フクベを「輪切り包丁」で切り、内部のズイ(ワタ)を取ります。そして、フクベを手前に回転させながら、マッチ箱大の手カンナで内側からむいていきます。
 
60.輪切り手廻し機 当館蔵

 
輪切り手廻し機使用風景

 「輪切り包丁」または「輪切り機」で、フクベ約3cm程の厚さに切り、手廻し機に固定させます。そして、右手で機械を廻し、左手でカンナの部分を外側にあて、むいていきます。
 
61.丸むき手廻し機 当館蔵

 
丸むき手廻し機使用風景

 フクベの中に、芯棒をさし、手廻し機に固定させます。そして、右手で機械を廻し、左手でカンナをフクベにあて、上から下にむいていきます。
 
62.輪切り包丁 当館蔵

 
63.輪切り機 当館蔵

 
64.干瓢カゴ 森田寛三氏寄贈

 
 
【干瓢のある風景】
65.干瓢の収獲 栃木県立文書館蔵

 
66.干瓢の調整 栃木県立文書館蔵

 
67.下野名産干瓢図解 栃木県立博物館蔵

 
 
68.干瓢問屋図絵馬 明治時代 板倉町雷電神社蔵 縦 121.1 横 181.7

 
 
ふくべ細工

 
 ふくべ細工は、ユウガオ(フクベ)やヒョウタンを加工したものです。カンピョウをとるユウガオ(フクベ)を利用したふくべ細工のほとんどは、炭入れとして使われていました。しかし、炭がだんだん使われなくなった現在では、花入れ、魔除け面、盆、菓子皿、銘名皿など利用されるようになってきました。製品の出荷は、鬼怒川・日光・川治などの観光地へ卸されています。
 
 
材料
 ふくべ細工に用いられる材料は、種取り用のユウガオ(フクベ)の実です。
 
製作工程・用具
①汚れを落とす②廻しノコで口を切る③中サライ④デバで口を削る⑤コクソをつけながら補強する⑥中の下ヌリ⑦手をつける⑧中の仕上ヌリ⑨外の仕上ヌリ⑩口の仕上ヌリの工程で製作します。
②クチキリ

 
④デバケズリ

 
⑤ナカシタヌリ (胡粉・ニカワ)

 
⑥クチノシタヌリ (胡粉・ニカワ・ショウェン)

 
⑦テツケ (竹・針金・籐ヅル)

 
⑧ナカノウワヌリ (鉛丹・ニカワ)

 
⑨オモテラックニスヌリ (ラックニス)

 
⑩クチノウワヌリ (カシュー)

 
 
ふくべ一刀彫
 

 上三川町上三川に住む渡辺孝一氏は、ふくべ細工に日光彫、鎌倉彫等の技法を取り入れ独特な工芸品「ふくべ一刀彫」を完成させました。製品は花入れを中心にループタイ・ブローチなどのアクセサリーを製作している本県唯一の職人です。
 
69.ふくべ一刀彫ブローチ

 
70.ふくべ一刀彫状差し

 
71.ふくべ一刀彫

 
72.ふくべ一刀彫花入れ