「小学校教則綱領」

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 「教育令」の改正に基づいて明治14年5月「小学校教則綱領」が出された。
 東京府が、「教育令」改正を実施に移したのは、公布されてから約1年半後の明治15年5月である。これについては、『東京府史』行政篇第一教育第2章小学校84項に
 
  本府ニ於テハ教育令公布以前ステニ明治十年下等小学ヲ二箇年半上等小学ヲ二箇年半トスル村落小学校教則ヲ制定シ同十一年ニハ修業年限六箇年ノ男女尋常科教則修業年限四ヶ年の簡易科教則ヲ制定スル等政府ヨリ一歩先ンシテ小学教育の社会化実際化ヲ図ツタ(略)
 
とあり、東京府では「学制」末期から、地域の実態にあわせた施策をとっていた[注釈5]。したがって明治12年、同13年の2度にわたる「教育令]の公布にも、明治11年に作成した男・女尋常(じんじょう)科、簡易科の3教則をそのまま継承し、15年までは大きな変革は見なかった。
 東京府が、「教育令」改正に沿って教育諸法規を整備したのは、明治15年の小学校諸規則改正である。この時整備された諸規則を列挙してみると、「小学教則」、「学齢就学督促規則」、「町村立小学教員任用規則」、「同教員月俸規則」、「同教員旅費規則」、「同校長訓導準訓導助教職務心得」、「小学校教員免許状授与規定」、「町村立小学校校務掛事務心得」、「小学試験規則」と「小学女礼式(じょれいしき)」の修身科導入などであった。このようにして、教育の体制が次第に確立されるとともに、教育の内容も徐々に充実し具体的なものになってきた。
 港区地域の各小学校もあらためて届出を行い、明治15年に「初等・中等・高等ノ三科ヲ教授ス」として初等・中等科各3年、高等科2年の8カ年の課程で教育をしている。
 「小学校教則綱領」の「第三章小学各等科程度」には次のように示されている。
 
  第十条 修身 初等科ニ於テハ主トシテ簡易ノ格言、事実等ニ就キ中等科及高等科ニ於テハ主トシテ稍高尚ノ格言、事実等ニ就テ児童ノ徳性を涵養スヘシ兼テ作法ヲ授ケンコトヲ要ス
  第十一条 読書 読書ヲ分ケテ読方及作文トス
   初等科ノ読方ハ伊呂波、五十音、濁音、次清音、仮名ノ単語、短句等ヨリ始メテ仮名交リ文ノ読本ニ入リ兼テ読本中緊要ノ字句ヲ書取ラシメ詳ニ之ヲ理会セシムルコトヲ務ムヘシ 中等科ニ於テハ近易ノ漢文ノ読本若クハ稍高尚ノ仮名交リ文ノ読本ヲ授ケ 高等科ニ至テハ漢文ノ読本若クハ高尚ノ仮名交リ文ノ読本ヲ授クヘシ 凡読本ハ文体雅馴(ガジュン)ニシテ学術上益アル記事或ハ生徒ノ心意ヲ愉(ヨロコ)ハシムヘキ文詞ヲ包有スルモノヲ撰用スヘク之ヲ授クルニ当テハ読法、字義、句意、章意、句ノ変化等ヲ理会セシムルコトヲ旨トスヘシ
   初等科ノ作文ハ近易ノ庶物ニ就テ其性質等ヲ解セシメ之ヲ題トシ仮名ニテ単語、短句等ヲ綴ラシムルヲ初トシ稍進テハ近昜ノ漢字ヲ交へ次ニ簡短ノ仮名交リ文ヲ作ラシメ兼テ口上書類ヨリ日用書類ニ及フヘシ 中等科及高等科ニ於テハ日用書類ヲ作ラシムル外既ニ学習セシ所ノ事実ニ就テ志伝等ヲ作ラシムヘシ
  第十二条 習字 初等科ノ習字ハ平仮名、片仮名ヨリ始メ行書、草書ヲ習ハシメ其手本ハ数字、十干、十二支、苗字、著名ノ地名、日用庶物ノ名称、口上書類、日用書類等民間日用ノ文字ヲ以テ之ニ充ツヘシ 中等科及高等科ニ至テハ行書、草書ノ外楷(カイ)書ヲ習ハシムヘシ
  第十三条 算術 筆算ヲ用フルトキハ初等科ニ於テハ実物ノ計方、加減乗除ノ法、其応用、度量衡、貨幣ノ名義及其計算ノ法ヲ学ハシムヘク 中等科ニ於テハ之ニ継クニ数ノ性質及分数、小数、比例ヲ以テシ、高等科ニ至テハ比例、百分算、開平、開立及求積等ヲ学ハシムヘシ 珠算ヲ用フルトキハ初等科ニ於テハ実物ノ計法、算珠ノ運用、加減乗除ノ法、其応用、度量衡、貨幣ノ名義及其計算ノ法ヲ学ハシムヘク 中等科ニ於テハ異乗同除、同乗異除、差分ヲ授ケ 高等科ニ至テハ筆算ノ加減乗除ノ法及分数、小数、比例ヲ学ハシムヘシ 凡算術ヲ授クルニハ日用適切ノ問題ヲ撰ヒ務テ児童ヲシテ算法ノ基ク所ノ理及題意等ヲ考究セシムヘシ
   但筆算、珠算ヲ併用スルモ妨ケナシ
  第十四条 地理 地理ハ中等科ニ至テ之ヲ課シ先学校近傍ノ地形即生徒ノ親ク目撃シ得ル所ノ山谷河海等ヨリ説キ起シ漸ク地球ノ有様ヲ想像セシメ次ニ日本及世界地理ノ総論、五畿八道ノ地理、外国地理ノ大要ヲ授ケ 高等科ニ至テハ地文ノ大要即地球、地皮、大気、水陸、生物、物産等ノ事ヲ授クヘシ凡地理ヲ授クルニハ地球儀及地図等ヲ備ヘンコトヲ要ス 殊ニ地文ヲ授クルニハ務テ実地ニ就キ児童ノ観察力ヲ養成スヘシ
  第十五条 歴史 歴史ハ中等科ニ至テ之ヲ課シ日本歴史中ニ就テ建国ノ体制、神武天皇ノ即位、仁徳天皇ノ勤倹、延喜天暦ノ政績、源平ノ盛衰、南北朝ノ両立、徳川氏ノ治績、王政復古等緊要ノ事実其他古今ノ人物ノ賢否、風俗ノ変更等ノ大要ヲ授クヘシ 凡歴史ヲ授クルニハ務テ生徒ヲシテ沿革ノ原因結果ヲ了解セシメ殊ニ尊王愛国ノ志気ヲ養成センコトヲ要ス
 
 この「小学各等科程度」は5年間実施され、明治19年公布の初めの「小学校令」の第12条「小学校ノ学科及其程度ハ文部大臣ノ定ムル所ニ依ル」によって改正された。「小学校令」の「小学校ヲ分チテ高等尋常ノ二等トス」(第1条)を受けた、「文部省令」「小学校ノ学科及其程度」において「尋常小学校ノ修業年限ヲ四箇年トシ高等小学校ノ修業年限ヲ四箇年トス」(第1条)とされ、それに基づいて、港区地域の小学校は、荏原(えばら)郡に属した白金学校が尋常小学校となり、他は各4年の高等尋常小学校として新発足した。
 
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