明治19年(1886)4月の「小学校令」は、尋常(じんじょう)小学科の履修を義務とした画期的なものであった。続いて文部省は、従来の「小学校教則綱領」を改めて同年5月「小学校ノ学科及其程度」を示した。
小学校ノ学科及其程度
第十条 各学科ノ程度左ノ如シ
修身 小学校ニ於テハ内外古今人士ノ善良ノ言行ニ就キ児童ニ適切ニシテ且理会シ易キ簡易ナル事柄ヲ談話シ日常ノ作法ヲ数へ教員自ラ言行ノ模範トナリ児童ヲシテ善ク之ニ習ハシムルヲ以テ専要トス
読書 尋常小学科ニ於テハ仮名ノ単語・短句・簡易ナル漢字交リノ短句及地理・歴史・理科・事項ヲ交ヘタル漢字交リ文 高等小学科ニ於テハ稍之ヨリ高キ漢字交リ文
作文 尋常小学科ニ於テハ仮名ノ単語・短句・簡易ナル漢字交リノ短句・漢字交リ文・口上書類及日用書類 高等小学科ニ於テハ漢字交リ文及日用書類
習字 尋常小学科ニ於テハ仮名日用文・口上書類及日用書類行書 高等小学科ニ於テハ日用文字及日用書類楷書・行書・草書
算術 尋常小学科ニ於テハ珠算ヲ用ヒ加法・減法・乗法・除法・普通ノ度量衡・貨幣・日用適切ノ雑題及暗算 高等小学科ニ於テハ筆算ヲ用ヒ算用数字・簡易ナル命位記数・加法・減法・乗法・除法・分数・小数・比例・利息算・雑題・簿記ノ概略及暗算
地理 地理ハ学校近傍ノ地形・其郷土郡区府県本邦地理・地球ノ形状・昼夜四季ノ原由・大洋大洲ノ名目等及外国地理ノ概略
歴史 歴史ハ建国ノ体制・神武天皇ノ即位・王朝ノ政治・藤原氏ノ専権・覇府ノ創立・徳川氏ノ治績・王政維新・外国交通貿易及世態文物人情風俗ノ変遷等ニ関シ重要ナル事柄及忠良賢哲ノ事蹟
理科 理科ハ果実・穀物・菜蔬(ソ)・草木・人体・禽獣・虫魚・金銀銅鉄等人生ニ最モ緊切ノ関係アルモノ 日・月・星・空気・温度・水蒸気・雲・露・霜・雪・霰・氷・雷・電・風・雨・火山・地震・潮汐・燃焼・錆・腐敗・喞筒(ポンプ)・噴水・音響・返響・時計・寒暖計・晴雨計・蒸気器械・眼鏡・色・虹・槓杆(コウガン)・滑車・天秤(ビン)・磁石・電信機・日常児童ノ目撃シ得ルモノ
図画 図画ハ自在画及用器画
唱歌 唱歌ハ単音唱歌・複音唱歌
体操 体操ハ幼年ノ児童ニハ遊戯 稍長シタル児童ニハ軽体操 男児ニハ隊列運動ヲ交フ
裁縫 裁縫ハ運針法・襦袢(ジュバン)・単物(ヒトエモノ)・袷(アワセ)等通常衣服類ノ縫方・裁(タチ)方及補綴(ホテツ)方
明治23年10月の「小学校令」では、尋常科4年、高等科は2、3、4年のいずれでもよいとされたが、港区地域の各小学校は、4年の尋常小学校と4年の高等小学校を併置した尋常高等小学校となり、明治19年以後、明治24年11月に、「小学校教則大綱」が公布されるまで、この教科の構成と内容で教育が行われた。
明治23年の「小学校令」は、教育勅語渙発(かんぱつ)直前であり、明治24年の「小学校教則大綱」は、その渙発後1年以上を経てからである。新しい「小学校教則大綱」は、「教育勅語」の趣旨を強く反映したものとなり、その後の教育を強く方向づけるものになっていった。