「教員検定制」と免許状

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 明治9年(1876)、東京府は、文部省の補助金をもとにして、教員講習所を府立の師範(しはん)学校とし、その卒業生に官立師範学校卒業生と同じ「訓導(くんどう)」の免許を与えた。
 しかし、[図1]でもわかるように、東京府における公立小学校の設立数は、微々たるものであったが、「学制」による教員は「師範学校卒業免状」を得たものでなければ、「其任ニ当ルコトヲ許サス」とされたので、卒業生で教員を組織するだけの需用には応じられなかった。小学教員講習所創立時の記録に「小学設立着手ノ際漢籍ニ通ズル者ヲ撰挙シテ学校ノ教員トス」とあるように、訓導の資格を与える「教員検定制」が、次のように明治7年に文部省より布達された。
 

[図1] 東京府における公立小学校の設立数(『東京府年報』)

 
  各地方ニ於テ小学教員タランコトヲ欲スル者ハ大学区本部官立師範学校ニ於テ学業試験ノ上小学訓導タルヘキ証書可相与候条志願ノ者ハ左ノ条相心得其地方便宣ノ官立師範学校へ可申出此旨布達候事(以下略)
 
 「官立小学師範学校生徒入学心得」によると、免許状は三等に分かれ、有効期間は5カ年に対して、検定合格者は優劣に応じて三等に等級づけたが、期間は3カ年になっていた。
 東京府は、明治10年に3カ所の師範学校分校を設け、現職教師の資質を補う夜学校を開いた。そして試験合格者には、「合格ノ者ヘハ学術確認証附与候条此旨相達候事」と達し、各学科ごとの証書を出し、全科合格に至った者へ訓導の証書を与えた。
 明治12年の「教育令」では、
 
  公立師範学校ハ本校ニ入学セサルモノト雖(イエド)モ卒業証書ヲ請フモノアラハ其学業ヲ試験シ合格ノモノニハ卒業証書ヲ与フヘシ(第35条)
 
と定めており、明治13年の同改正においても、これが受けつがれた。文部省は、これに基づいて明治14年1月に「小学校教員免許状授与方心得」を次のように定めた。
 
  官立公立師範学校ノ卒業証書ヲ有セスシテ小学校教員タラントスル者ニハ初等若クハ中等若クハ高等ノ学科ヲ教授シ得ルニ足ルノ学力アルヲ検定シタルノ後該等ノ小学科教員免許状ヲ授与スルモノトス(第1条)
  小学校教員免許状ノ効ヲ有スヘキ年限ハ五箇年ヲ過クヘカラス(第2条)
 
 これは、明治14年5月の「小学校教則綱領」で、小学校が初等科・中等科・高等科に編制されるのに応じたもので、師範学校も初等・中等・高等師範学科になり、それぞれの卒業証書は7年の有効期間になったことに伴う、検定制の変更である。そして、高等科免許状では小学各等科、中等科免許状では初・中等科、初等科免許状では初等科の児童を教えることができるように定めている。
 明治14年7月に、文部省は「小学校教員免許状授与方心得」を次のように改正した。
 
  唱歌体操裁縫家事経済等ノ学科ニ関シテハ特ニ之ヲ教授スルモノヲ置キ第一条合格ノ教員ヲ得難キ地方ニ於テハ一学科若クハ数学科ヲ教授シ得ル者ヲ合セテ合格教員ニ代用スルヲ許可スルコトアルヘシ此等ノ場合ニ於テハ各自ノ学力ヲ検定シテ其学科ノ教授免許状ヲ授与スルコトヲ得(第2条)
  硯(セキ)学老儒(ジュ)等ノ徳望アリテ修身科ノ教授ヲ善クスル者若クハ小学各等科中土地ノ情況ニ因リテ加フル所ノ農業工業商業等ノ学術ニ長スル者ハ学力ノ検定ヲ要セス特ニ該学科教授免許状ヲ授与シテ訓導トナスコトヲ得(第5条)
 
 初・中・高等の免許状所有者(師範学校卒業者か、第1条による検定合格者)が得がたい場合は、準訓導として唱歌・体操・裁縫・家事経済の専科教員を置くことができることと、修身科の教授をよくする者、農・工・商に長じている者には、文部省の認可のみで該当教科の訓導にすることができるようにした。このことによって、教育方法の充実とともに儒教(じゅきょう)主義の徳育に力を入れようとしている姿勢もうかがえる。
 明治19年、「師範学校令」とともに、次の「小学校教員免許規則」で有効範囲や期限が定められ、教員免許制度の確立がはかられた。
 
  普通免許状ハ文部大臣ヨリ授与シ全国ニ通シテ有効ノモノトス(3条)
  地方免許状ハ府知事県令ヨリ授与シ其管轄地方ニ限リ有効ノモノトス(4条)
  小学校教員学力検定試験ハ尋常師範学科及其程度ニ拠リテ之ヲ施行スヘシ、但一科若クハ数科ニ限リタル教員学力検定試験モ本文ニ準スヘシ(11条)
 
 普通免許状は、高等師範学科卒業生か地方免許状の者で5年以上学術・授業ともに優れているものに与え、無期有効であり、地方免許状は尋常(じんじょう)師範学科卒業生か検定試験に及第したもので5年の有期有効であった。
 また刑罰や信用・風俗を害する罪を犯した時は「之ヲ没収スヘシ」としてあり、資格をきびしくしていることがわかる。
 
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