[図7]東京愛隣社設立の趣意(東京都公文書館所蔵)
明治23年から45年までの明治後期は、3回に及ぶ「小学校令」の改正があった。
明治23年10月、「勅令」第215号として公布された「小学校令」は、明治21年の「市制・町村制」、同23年の「府県制」「郡制」によって、地方自治制度の整備とのかかわりで改正されたのであるが、この改正令は、第1条に小学校教育の目的を明示することで著しい進歩があった。旧令では、小学校を単に「普通教育を施す所」というに止まったのに対して改正令においては、第1条に
児童身体ノ発達ニ留意シテ道徳教育及国民教育ノ基礎並其生活ニ必須(ヒッス)ナル普通ノ知能技能ヲ授クルヲ以テ本旨トス
と明確に示した。旧令で認めていた簡易科を廃し、尋常(じんじょう)小学校の修業年限は3年又は4年として、就学義務を少なくとも3年と定めた。そして、高等小学校の修業年限は、旧令では一律に4年としていたのを、その地域の実情に適応させるために2年、3年、または4年というように柔軟性をもたせた。芝・麻布・赤坂の3区は尋常小学校、高等小学校ともに4年と定めた[注釈2]。
[図8]明治のころの子供と教師・明治44年麻布小学校6年生女子(麻布小学校卒業記念アルバム)
この改正令のもう一つの特色は、私立小学校の代用規定にある。
初等教育の義務化はされたものの、全学齢児の収容に足りる学校数の確保は望むべくもなかった。窮余(きゅうよ)の策として私立小学校代用制がとられたものであった。寺子屋、私塾、家塾の多かった東京では、明治24年より代用制を実施し、学校数の確保と共に、これら寺子屋などの救済をも兼ねたのであった[注釈3]。芝・麻布・赤坂の三区もそれぞれに代用私立小学校を指定し、公立小学校の不足を補った[注釈4]。
明治33年8月20日、「小学校令」の改正が行われた。この改正令の特色は、大きくは二つあり、その一つは、義務教育修業年限を4カ年に一定したこと、他の一つは、尋常小学校の就学に対して、授業料を徴収しないこととしたことである。
学校経費の主要財源について見ると、明治初年の「学制」施行当時は寄附金が当てられ、「教育令改正」では当時の市町村費となり、明治18年には、町村の自由となっていた授業料が必ず徴収されるようになり、同19年の「小学校令」では、授業料が主要財源と規定されるという経過をたどった。そして、同23年の「小学校令」においても、授業料を納めるのを本体としたため、就学率は向上しながらも、生活困窮のため就学できない児童が数多く残されていった。これに対しては、一部の民間篤志家(とくしか)の援助もあったが、十分な対処はできなかった。そして、一方では教育費の国庫補助を要求する声が高まっていった。このような状況の中で、義務教育の授業料を無くすことが定められるということになるが、教育現場でただちに実施されるわけにはいかなかった。この授業料に相当する金額は、そっくり地方税として地域住民にまたかぶさっていくことになるのである。特別の事情がある場合は、府県知事の認可により、授業料の徴収が認可された。芝・麻布・赤坂の3区は、それぞれ20銭程度の授業料を徴収していた。
明治33年の「小学校令」改正では、従来、読書・作文・習字と称したものを合わせて「国語」という教科を設け漢字の数を限るなど、教科目の整理や指導内容についても規準を示した。
3度目の大きな改正として、明治40年3月、義務教育年限を2年延長して6年とすることが定められた。高等小学校は2年ないし3年とした。この義務年限延長に対しては、2年間の準備期間をもたせ、教室の足りない場合は2部制を設け、昼夜2回の2部授業をも認めることとした。
東京市では、明治41年に尋常小学校と高等小学校の併置を認めながらも、それぞれ分離した独立校とすることにした。このため、芝・麻布・赤坂の3区の各小学校は、一斉に高等小学校の併置を廃し、校名を「尋常小学校」と改名、高等小学校を分離し、あるいは高等科を廃止していった。施設の不足は2部授業を行ったり、小学校校舎を併用したりしてしのいだ。
この時期における授業料は桜川小学校の記録によると、1年から4年までが20銭均一、5年6年は80銭となっている。明治43年には、22学級編制のうち、14学級が2部授業を行い、授業料は20銭均一となった。
この後、同44年にも「小学校令」の一部改正があり、高等小学校の随意科を必修とすることになった。
関連資料:【文書】教育行政 小学校授業料
関連資料:【文書】小学校教育 桜川小学校経費の推移
関連資料:【文書】小学校教育 赤坂区小学校修業年限
関連資料:【文書】小学校教育 麻布区小学校修業年限
関連資料:【文書】小学校教育 芝区小学校修業年限
関連資料:【文書】小学校教育 私立代用小学校
関連資料:【学校教育関連施設】
関連資料:【くらしと教育編】第3章 子どもの就学における行政と家庭
関連資料:【くらしと教育編】第3章第1節(1) 公立小学校と私立小学校