各小学校は「校規」あるいは「梗概(こうがい)」にその細目を記し指導に当たった[図38]。
[図38]赤坂小学校校規・明治40年9月
明治40年の赤坂小学校「校規」では、第2章として教授に関する細目を定め、週時数と共に実地指導の主要事項をあげている[注釈18]。
算術科を例にすると、まず、形式及び記号として、1、数字の書き方 2、記号の書き方及び読み方 3、筆算の運算形式 4、珠算の除算呼声 5、数の書き方、を示している。各教科の教授細目に続き第2節として教授日程及び教授案をあげ、各教科ごとの記載すべき要目を細かく規定し、「具体的教授順序即教授ノ格式ノ標準」を定めた。各教科は、甲、乙、丙の項目ごとに要点を記しているが、理科だけは「五段教授法ハ理科教授法ナリトサヘイヘバ別ニ格式標準ヲ定メズ」としている。
同年の『青山小学校要覧』には、左のように示されている。
・教授日程及教案
第一条 教授ノ目的ヲ達センガ為メニ教授日程及教案ヲ調製スルモノトス
第二条 日程及教案ハ前日之ヲ調製シ校長若クハ首席訓導ノ検閲ヲ経ベシ
第三条 日程ハ教授細目ニ準拠シ教授実際ノ進度ニ照シ各科教材ヲ日及時ニ配当シテ其分量ヲ明示スベシ其記載要目左ノ如シ
修身(徳目、説話題目、教科書ノ頁、行数) 読方(課名 教科書ノ頁行数) 綴方(文題) 書方(習シムベキ文字) 算術(算法ノ題目) 歴史地理科(題目及部分、題目教科書頁、行数) 唱歌(歌名) 図画(図題) 体操(体操遊戯ノ種類) 英語(教科書ノ頁行数) 裁縫(製作物ノ名) 手工(題目製作品名)
第四条 教案ハ教授日程ニ準拠シ教授事項ト教授ノ方法トヲ簡明ニ記載スベキモノトス其記載要目左ノ如シ
とし、更に、各教科ごとに要点が挙げられている。
筓(こうがい)小学校では、明治43年に『本校教育之梗概』をまとめ、まず「教授総論」、を述べ、各教科につき細かな記載をしている。そのうちの理科について抜粋してみると次のようである。
一、主義方針
本科ノ主義方針小学校令ニ掲ゲタル要旨ニ適合シ土地ノ情況ニヨリテ材料ヲ取捨スベキモノトス而(シコウ)シテ文部省編纂(サン)理科書ハ凡例ニ見エタル如ク東京市付近ヲ中心トシテ編纂セルモノナレドモ直ニ該理科書ヲ使用スルニ於テハ土地ノ情況ト其他種々ナル関係ヨリ聊(イササ)カ顧応セザルヲ得ザル点アリトスサレバ当校ニ於テハ之ヲ実施スルニ当リテハ多少ノ研究ヲ要スベキハ素(モト)ヨリ当然ノコトナリトシ特ニ細目ヲ編纂シ以テ該科教授ノ要旨ニ添ハン事ヲ努ム
そして、留意すべき点を6項目をあげた後、「二、教授ノ方法」として
従来理科教授ハ科学的ニ流ルルノ弊アルニヨリ本校ハ特ニ此ノ点ニ感ズル所アリ可及的実際的ニ解決スルノ能力ヲ授ケンコトヲ期シ専ラ観察ニ主力ヲ用ヒ教授材料モ観察シ能ハザルガ如キ疎遠ノモノアリテハ勉メテ之ヲ避ク故ニ学校園ノ経営ト理科器械ノ整理トニハ多大ノ注意ヲ払ヒ動植物ニアリテハ土地ト密接ノ関係アルモノノミヲ集メテ決シテ種類ノ多キヲ貪(ムサボ)ラズ児童ニヨリ充分観察セシムベキモノヲ撰((ママ))ビタリ。カク観察ヲ主トスルヲ以テ之レガ実績ヲ挙ゲンタメ次ギノ諸方法ヲ講ス 一、校外教授 二、校外観察 三、実物ノ採集是レナリ
物理化学教材ニアリテハ人生ト密接ナル自然現象ヲ説明スルニ最モ適切ナルモノヲ選ビ実験ニ訴ヘテ教授ス
6年制の義務教育も確立し、就学率も90パーセントを超えた時期である。
各教科の要旨や内容が確立し、各学校の研究と創意による教授細目の考察と相まって、小学校の教科課程は整備確立してきたのである[図39]。
[図39]唱歌教授法・明治34年筓小学校
関連資料:【文書】教職員 笄小学校学校経営の研究
関連資料:【くらしと教育編】第7章第1節 「新教育」以前の学校教育