これより先、新しい時代の道徳を示すものとして、福澤諭吉の提唱によって、「修身要領」が作成されたのは、明治33年である。これは国民道徳の綱領を表わしたもので、29カ条にまとめられ、独立自主の精神を基本とする点で従来の道徳観とは趣旨を異にするものであった。『時事新報』に全文が掲載され、同時に慶応義塾によって全国各地で演説会が実施された。新道徳運動として知識人を中心に世人(せじん)の関心を呼んだが、日露戦争後の国家主義の台頭により社会全体に根づくには至らなかった。
一方、民間における道徳運動は日本講道会(後に弘道会と改む)によって明治10年代の後半からさかんとなってきていた。この会は全国に多数の会員をもって、演説、著述、問答などにより国民道徳の弘布につとめ、その活動は明治、大正、昭和にわたった。