教授・訓育・養護が小学校教育の3本の柱であった。これは小学校令第1条「小学校ハ児童身体ノ発育ニ留意シテ道徳教育及国民教育ノ基礎並其ノ生活ニ必須ナル普通ノ知識技能ヲ授クルヲ以テ本旨トス」に基づくもので、3本の柱の調和のとれた指導が要請されていたのである。
次に、筓(こうがい)小学校の大正初期の訓育の具体策を校報誌『かうがい』から抜粋してみる。
校訓 (前略)本校では児童の生活の上に最も適切な徳目を、修身書から撰び出し本校訓育の細目、即ち校訓としています。
一 よく勉めよく遊べ。
二 きまりをよくせよ。
三 いひつけにはよく従へ。
四 正直にするがよい。
五 親切にするがよい。
なお、この外に細目を定めている。単に校訓の示すところは、ごく概括的であるので、更に小分けして別に説明注意を加えなくとも、児童の知識で容易に了解され反省できるように明示する工夫がされている。それが次の「訓練要目」であった。
訓練要目の例
一 規律
(1) よく勉めよく遊べ
学校を休むな 遅刻早退するな 遅刻しても途中から帰るな 復習を怠るな
学用品を忘れるな 左側を通れ みだりに教室に入るな みだりに席をはなれるな
わき見をするな 教壇に上る時は礼をせよ 教室や廊下を走るな 戸をあけ放すな……
(2) きまりをよくせよ
兄弟連れ立ちて登校せよ 始業三〇分前から登校せよ 登校途中で道草をするな
手巾(はんかち)、鼻紙を忘れるな 人の物を断りなく使うな 許しなく貸借交換するな
拾い物は届け出よ 所持品を大切にせよ……
二 整頓(略)
三 清潔(略)
四 礼儀(略)
五 姿勢(略)
六 言語(略)
訓育は、学校生活における教育の重要な一部であり、児童一人一人の人格陶冶(とうや)とともに、よい級風や校風を結果として得るものであるとしている。しかし、一方において「訓練要目」のように、余り細かな日常行為を規制することは、かえって児童の天性を害しはしないかという考えも、根づよくあったが大正期の個性尊重などの教育論が導入されてきた影響であろう。