大正中ごろから学校教育が充実するにつれて、粗野な児童の状況を憂い、家庭教育の啓蒙を各学校で行っている。保護者会、学校通信などで盛んに家庭教育の必要性や、その内容、方法を訴えている。
例えば、当時の児童たちの粗野な言動について青南小学校の記念誌の中に次のようなものが示されている。
野卑に聞える言葉
男性 あたい、わたい、おれ、おら、おまえ、てめえ、きさま、うぬ、あいつ、(以下略)
女性 あたい、わたい、おまえ、おまえさん、やだ、やーだ、(以下略)
敬語の穏やかならぬもの(男女)
先生が来た、先生に聞いてみろ、先生が言った、(以下略)
厳禁すべき方言・卑語
おっかちゃん(母)、がき(子ども)、あま・あまっちょ(女)、けーるーよー(帰りましょう)、いけどろぼー、こんどろぼう(泥棒)、あんちきしょう(畜生)、やろー(野郎)ぬかしやがった、(言った)(以下略)
具体的な家庭教育(児童躾(しつけ)方)について、筓(こうがい)小学校の校報『かうがい』第7号(大正7年)から抜粋してみる。
児童躾(しつけ)方について
一 悪い傾向だと信じたことは早くやめさせるやうにして頂きたい。
二 教師のいう事は何事も信ずるやうにしたい。
何でも先生の言うことは信ずる方が効果がよい。
三 御子様の日々の課業に同情して頂きたい。
子供の発奮力を育てるために、学校で得たことを質してみたり、成績を批判し、日常の生活に同情していくこと。
四 小言や命令は簡単なのがよい。
気長に教えていただきたい。温和で、親切であるといふのが子供の躾の上に大きな必要条件であります。
五 周囲の空気
学校へ通はせる時間は最も正しく守らせていただきたい。
六 従順の徳を養ふ。――賞を以てするのは考へもの。
七 いたづらの矯正は一貫して適当に訓戒を与える。
八 うその指導は動機を調べ、適当な処置をとるが慎重な熟慮を必要とする。
九 食物の好嫌――わがままより来る好嫌は最も注意し、其のわがままを改めしむると共に好嫌を少くする事に意を注ぐ。
十 言語は人の感情を支配す。――言語の矯正が大事である。
子供は何でも模倣しつゝ覚え、之がやがて知識ともなり品性ともなるのでありますから、周囲の人の善良な模範が最も大切と思います。
十一 少しく厳しく躾ること。
十二 わが子が餓鬼大将でないかに注意をはらうこと。
餓鬼大将になって遊ぶ時には自然と自分の好きな遊びをするもので、兎角悪い傾向を帯びて来て、自然子供の性格にまで立入る様に思われる。
以上のことをまとめると子供の心情の理解を基盤とする家庭教育のあり方を強調している。これも大正期の教育思想に基づいた家庭のしつけ教育論といえよう。
関連資料:【文書】小学校教育 氷川小学校保護者会