新教育思潮と保育内容

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 大正デモクラシーは、教育界に児童中心主義の教育思想を生み、これは幼児教育思想にも影響を与え、例えば明治41年(1908)に東京女子高等師範(しはん)学校中村五六教授は「幼児教育法」のなかで、従来、ともすれば幼児を保母の指示どおりに活動させ、恩物(おんぶつ)なども外から押し付ける指導に傾きがちであったことを批判し、「主観的形式的」「娯楽的喜戯的」「誘導的感化的」な教育を主張し、幼児の自由な活動を強調している。そして、大正6年(1917)同校の教授、附属幼稚園主事となった倉橋惣三は、形式化した明治以来のフレーベル主義の保育の革新を実行した。
 幼稚園の保育内容は、小学校以上の学校が教授要目などによって教育内容が画一化されているのと異なり、明治44年(1911)以降、ただ、保育の4項目(遊戯、唱歌、談話、手技)の名称が列記されているだけで、その取扱いは各幼稚園に任されていた。したがって、熱意と識見のある園長、保母のいる幼稚園では、児童中心主義保育を大いに推進していた。
 区内の幼稚園の保育内容を大正期に新設された数園の保育規程などの中から転記してみると、つぎのようになっている。
 
  東京市麻布幼稚園(大正二年設立)
   第三条 幼児保育の項目ハ遊戯・唱歌・談話・手技トス[注釈6]
  私立南町幼稚園(大正四年設立)
   保育課目ハ 遊戯・唱歌・談話・手技トス
  手技ノ種類ハ摺紙、貼紙、剪紙、織紙、縫取、繋キ方及豆細工
  私立三光幼稚園(大正七年設立)
   第四条 幼児保育ノ項目ハ遊戯・唱歌・手芸・談話トス[注釈7]
  私立普連土女学校附属聖坂幼稚園(大正七年設立)
   第三条 保育課目ハ恩物、手工、自然科、日英唱歌、遊戯、談話及発音トス[注釈8]
  私立安藤幼稚園(大正一五年設立)
   第二条  保育課目 保育課目ハ遊戯唱歌談話観察及手芸トス
   第三条  保育課程 別紙ノ通リ([図4]参照)[注釈9]
 

[図4]私立安藤幼稚園の保育課程

 地域内幼稚園の保育内容を見ると、私立幼稚園には、若干の特色が見られるが、中心となる保育内容は、明治33年の「小学校令施行規則」に規定されている保育の基準にのっとっていることがわかる。
 大正15年(1926)4月の「幼稚園令」「幼稚園令施行規則」施行後に設立された安藤幼稚園は、その新しい法令に即した保育内容に改められ、一層の充実がはかられたことを物語っている。
 
関連資料:【文書】幼児教育 私立三光幼稚園の設置
関連資料:【文書】幼児教育 私立普連土付属聖坂幼稚園の設置
関連資料:【文書】幼児教育 私立安藤幼稚園の設置