産業教育発達の背景[図1]

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 第1次世界大戦後の経済不況によって、地域内工業界も深刻な打撃を受け、更に大震災により発展は一時停滞した。しかしこれまでの商工業の発展により、近代産業は確実に形を整え、若い工場労働者や商業従事者の数も増加してきたので、企業にあっても次第にそれら若者たちの教育に深い関心をもち、産業教育に大きな期待をもつようになった。また青少年自身、近代産業界に働くための教育の必要を強く感じてきたものと思われる。大正期になって、産業教育が急速に発展したのは、こうした背景をもつものとみることができる。
 大正期の産業教育の急速な発展のもう一つの要因は、臨時教育会議の答申であろう。臨時教育会議は実業教育の改善に関して次のような答申を行っている。
 実業学校に関する制度は、明治後期に成立した現行制度を改める必要のないことを述べた上、8項目の振興策について強調している。すなわち、実業教育の振興発達を図るため、国庫補助の増額その他適正な奨励策を講ずること、実業学校においては技能に偏らず徳育に一層の力を用い人格の陶冶(とうや)に努むること、実業教育に関する行政機関を整備すること、実業学校に関する規定は一層緩め実際に適切にすること、実業学校教員の待遇を急いで改善すること、実業学校と実業界連絡を密にし相互の協力を促進すること、実業補習教育の義務化を図ること、実業補習学校のうち特に程度の高いものは制度上別に扱いその職員の待遇についても規定をもうけること、などとなっている。
 

[図1]三田の商工業地域(『港区史』下巻)