また、先に触れたように郷土を愛し、ひいては国土に対する愛情を養おうとする郷土教育の実践も熱心に行われた。芝区教育研究会地理部の研究になる『郷土教育の実践』を受けて、各校で学区内を十分調査し、自校に適切な指導資料を作成し活用している。
『郷土教育の実践』 (昭和10年3月 芝区教育研究会地理部)
「はしがき」郷土教育の重要な一部を負担する郷土地理が、児童の教育上幾多の使命を有することは今更いふまでもない。然し大都市に於ける人文活動が極めて複雑しているために、児童の眼前に展開されている自然と人文、人文と人文の渾(こん)一された具体的な姿を正しく認識し理解することは児童にとって仲々容易な業ではない。……吾々帝都の児童教育に当る者としてはこの点大いに考慮し、正しく郷土を理解させ、その正しい理解から湧(わ)き出づる郷土愛の培養に努力しなくてはならない。次に、授業計画の一事例を示してみたい。
題目 「大東京」 (凡そ一時間)
要旨 大東京の位置・特色・発達等の大要を知らしむ。
準備 大日本全図、大東京地図、関東地方地図、工業区、商業区、住宅区の写真
指導要項
一 位置 1 日本列島の中央にあって関東地方の要地を占む。
2 隅田川に跨り東京湾に臨む。
3 台地と低地とにわたっている。
二 特色 1 東京は我が大日本帝国の帝都で宮城を市の中心に仰ぐことは我等の誇りである。
2 政治の中心地で丸の内附近に諸官衙(が)が密集している。
3 交通、経済、学術の中心地である。
4 台地上には住宅が多く、低地に商業工業が盛んである。
三 発達 四 指導上の注意 五 解説 略
題目 「機械器具工業」
要旨 機械器具工業は通学区域附近に於ける一大特色で他の工業乃至生産業に遙かに優り、児童の中にも工業関係者の子弟が少くない。こゝに機械工業の大意を説き、京浜工業地帯との関係を見、近代的の大工業が如何(いか)にして盛んになったかを考究せしめたい。
教授要項 一 工業関係者調査 二 工場分布 三 主要の工場 四 工産物 五 工業発達の理由考察 (以下略)