臨海学園

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 児童の健康増進と心身の鍛練をめざして、学校独自の臨海団や、区の臨海施設が次第に整ってきた。桜田尋常(じんじょう)小学校は、「桜田臨海団」の効果を次のようにあげている。
 
  精神的には
  父母の膝下(ひざもと)をはなれて最も意義ある共同生活の体験を営ましめ、自立更生の道に進むことの修練を積み、家庭の有難味、即ち父母に対する感謝の念を強からしむると共に、我儘(まゝ)を自力でおさへるというような体験を得させる。
  身体的には
  皮膚の鍛練をなしこの結果は……風邪にかからぬ……万病に犯されぬ事。平素気付かぬ背柱の矯正(裸体生活)。一般姿勢の矯正。貧血児に及ぼす影響。胸部に及ぼす影響(裸体生活)。徒歩の下手な子供が直る(ハダシと砂)。水に対する憶病を去り水泳も覚える。総体的に体重が殖(ふ)える。(『桜田校報』 昭和7年)
 
 このような長所を、臨海団によって認め得るとし、芝区20校中唯一校で神奈川県茅ケ崎海岸に桜田臨海団を施設していた。
 
 過去の我が臨海団が其効果の著しき点、又精神的並に身体上から頗る顕著なる効果あるため年一年と其の団員も増加を見、即ち市と区に於ける讃辞と激励の言葉は、即ち我が校施設の臨海団を承認して余りあるものと信じる
 
とその成果を述べているが、唯(ただ)遺憾なこととして、参加児童数が割合い少ないことと、経費の点の問題をあげている。
 次に、赤坂区においては、学校の夏季休暇を利用して、区内小学校児童の訓練と健康増進のため、又は平素虚弱なる児童の体質改善を計るため、毎年沼津臨海学園を実施していた。
 沼津臨海学園は、児童の心身の鍛練と団体訓練とを主な目的とし次の時代を担うべき国民を錬成するために、同区が昭和11年(1936)より毎年開設して来た夏季施設の一つであって、短期間ではあるが、この海浜の生活が児童の健康と訓練の上に及ぼす効果は大なるものがあった。
 場所は、静岡県沼津市我入道に於ける赤坂区沼津臨海学園として、この園舎は昭和11年3月30日の区会の決議に基づき敷地を購入し、同年中に園舎新築の工事を竣工(しゅんこう)したものである。その概要は次の如くである。
 
   沼津臨海学園
 一 建築位置 静岡県沼津市我入道字蔓陀ヶ原五〇九
 一 敷地面積 五八三坪〇五
 一 規  模 児童室 六室(一室二一畳敷)
    (イ)建物坪数 建坪二四九坪六二五 延坪二九〇坪
    (ロ)校庭運動場 二九〇坪
    (ハ)建物の内容 一階―児童室一、職員室一、職員宿直室一、浴室一、小使室一、脱衣室一、シャワーバス室一、食堂一、洗面室一、炊事室一、配膳室一、物置一、玄関一、便所二  二階―応接室一、来賓室一、娯楽室一
 
 夏季臨海学園は、区が建造したこの永久的建物を使用するのであるが、毎年赤坂区教育会副会長たる同区長の主催するところで、昭和15年度の実施要項及び日課表は次のようである。
 
   実施要項
 一 教導担任者 小学校長一名、首席訓導一名、訓導一〇名(一期に付)
 一 組織及び施設の概要 区内各小学校四学年以上の男女児童中の希望者各学年一八〇名宛(一期間定員)を以て組織す。而して以上児童を建坪二五〇坪の永久的園舎に収容し次の行事を為す―海水浴、学習、遠足、見学、会合、映画、採集
 一 参加児童生徒男女別 四学年男女一八〇(第一期自七月二二日至七月三一日)五学年同(第二期自八月一日至八月一〇日)六学年同(第三期自八月一一日至八月二〇日)
 一 参加条件、費用、健康等の関係 児童一期一名一三円を徴収す。但し貧困児童は免除、又希望者に対し校医健康診断を行い、参加に耐得る者のみを入園せしむ。伝染病疾患あるものは除く。
 一 総経費及其他 総経費七、五六〇円、内訳五四〇円教育会負担、七、〇二〇円児童負担
      日課表
 (1) 起床 五時三〇分
 (2) 朝礼 六時一〇分 国旗掲揚 宮城遙拝 訓話 体操
 (3) 朝食 六時三〇分 自由林間遊歩
 (4) 学習 自七時三〇分 至九時
 (5) 海水浴 自九時三〇分 至一一時
 (6) 昼食 自一一時三〇分 (休憩)
 (7) 午睡 自〇時三〇分 至一時三〇分 (自由時間、遊歩)
 (8) 海水浴 自二時 至三時三〇分
 (9) 間食 四時 (入浴、歓談)
 (10) 夕食 五時三〇分 (郊外逍遙(しょうよう)又は学習)
 (11) 就寝 八時
 (12) 消灯 八時三〇分
  備考
  期間中の行事として学芸会、淡島静浦の遊覧、登山を行うものとす。
 この沼津臨海学園のほかに、次のような施設も設けられていた。
 
■玉川夏季保健所(世田谷区玉川町2568)
 玉川夏季保健所は毎年夏季に於て児童の健康増進の目的を以て、風光明媚(めいび)なる多摩川河畔の兵庫島に開設していた。当保健所は赤坂区長の主催にかかり、期間中児童水泳のための休憩所を設営し、水泳、訓練、体操、見学、学芸会などを行っていた(昭和15年度)。
 参加児童は、各小学校3学年以上の男女希望者700名で組織し、10日間実施された。
 
■ニコニコ学園
 麻布教育会が神奈川県金沢町海浜に開設、同町の小学校を借用して実施していた(大正11年)。
 
■学校及びプール開放
 区内各小学校は、夏季休暇中の7月下旬より概ね20日間及至25日間、学校開放、プール開放、ラジオ体操、水泳会などを実施した。
 
■林間学校
 高原や林間における児童の健康増進や訓練も盛んになってきた。記録によると、児童の体質の向上を図る目的で、夏季毎年開催されている。
 夏季林間学校 千葉県君津郡富津町の西南端字川名
 入園者は、5学年以上であった(大正10年)。
 赤坂高原学園 栃木県那須郡八幡温泉(昭和4年、5年)
 麻布林間学校 盛岡町元高松宮御用地にて開催(昭和6年)
 麻布区教育会ニコニコ学園 牧野元次郎氏寄附 金沢町町屋(昭和7年)
 麻布ニコニコ学園増築(牧野元次郎氏寄贈) (昭和8年)
 
 ニコニコ学園は毎年開設されてきた。
 
関連資料:【文書】教育行政 赤坂区教育会
関連資料:【文書】小学校教育 麻布区教育会・臨海団
関連資料:【文書】教育行政 麻布区教育会