昭和初期の港区の校内研修は、各校の沿革誌から若干例を拾うと、次のようなものがあった。
修身科研究授業(区研究部主催) 麻布尋常(じんじょう)小学校 昭和11年
映画研究会 南山尋常小学校 昭和12年
修身研究会 筓(こうがい)尋常小学校 昭和14年
次は、白金尋常小学校の校内研修の記録の一部である。「全体的立場より見たる我が校の生活教育」、「本校生活教育に立脚せる生活修身の立場とその指導体系に就いて」の研修記録の中より一部分を引用してみると次のとおりである。
我々の信じる生活教育とは、人間全体の生活の指導であり、生活は人間の生命であり、生命の機能の具現である。換言すれば、生命の時間的に経過するその刹那(せつな)々々に於ける総てが生活であり、その総てを指導することが教育であり、換言すれば、教育即生活、生活即教育である。そこに全人的な、知、情、意のあらゆる機構への働きかけがあり、それこそ真の生活教育であると信じる。
我等は児童の生活に触れなければならぬ、出来得るならば児童の生活の中に生活し、児童の心を自己の心に映じさせなければならぬ。而しそれは不可能なことであって、児童の心とはかくあるべしと思ふ根拠は漠然とした幼児の思出のみ大人の世界には許されてゐない。然らば我々は如何したらよいか、それは只児童を愛する。その一事より他はなしと信じる。只管(ひたすら)に正しき成長を祈る敬虔な児童への愛によってのみ、我々は一歩たりとも彼等の生活に近づき、彼等童心に触れ得るのではあるまいか。(後略)
このように校内での教師間の相互研修の成果がわかるような記録をみることができる。
氷川尋常小学校では、昭和5年度(1930年度)創刊の『氷川学報』に毎年、教師の研究授業、研究発表会、職員の研究修養・講習と研究会というような欄を設け、校内研修の実態を収録している[注釈5]。
職員の研究修養、今日の学校教育は極めて複雑多岐に亘(わた)ってゐますのでそれに伴って職員の勤務も頗る繁忙を極めています。この繁多な生活の中にも日々夫々の立場に於て放課後或は休日を利用して研究修養が積まれているのであります。次に昭和九年九月以降十三年五月に至るまでの文書として纏(まとま)った研究事項、学事視察の地方及研究表彰を次に録しその活用に便すると共に将来の研鑚に資することにしました。
研究事項(昭和九年九月以降)(研究者氏名省略)
1 図画展覧会、図書指導細目、設備、施設、事務、行事要覧
2 直観科用紙
3 養護学級要覧、栄養講話資料
4 教授資料産業図及指導要項、地理教科書押図解説―略―
5 作法指導細目
6 史跡写真、記録映画作製
7 綴方優秀作品集及調査録(十一年度、十二年度)
8 直観科の基本問題、直観科用紙、校外教授細目、史跡写真
9 新読本文字語句の読み調査、読本巻五教授細目、学籍簿
10 国史と郷土関係資料一覧、海舟先生年譜、参宮旅行―略―
11 屋上展望図、学校中心模型地図
12 新読本文学語句の読み調査、学籍簿改正要点と記入法研究
13 史蹟写真
14 「私のからだ」調査、剣道指導細目、剣道相撲指導要項
15 海舟老生と氷川小学校、学校経営概要、服務勤務要覧―略―
全員 郷土教育資料
学事視察 一〇名、信越、佐渡、山陰、北陸、関西、中国、四国、埼玉県、養護施設等(要点のみ掲げる)
(『氷川学報』昭和13年8号)
関連資料:【文書】教職員 氷川小学校職員の研究