昭和20年10月には区内の各学校にも「国民学校教科書修正個所一覧表」が、東京都教育局国民教育課より配布されている。その注意事項には、
[図3] 墨塗り教科書
[図4] 墨塗り教科書
(復刻国定教科書(国民学校期)ほるぷ出版)
一 教科用図書ノ省略削除又ハ取扱上留意スベキ規準並ニ教材補充ノ注意事項ハ曩(サキ)ニ通牒セル「終戦ニ伴フ教科用図書取扱方ニ関スル件通牒」に拠(ヨ)リタリ。
二 本一覧表ハ取急ギ東京都教育局ノ責任ニ於テ指示セルモノニシテ、将来文部省ヨリノ通牒ノ如何(イカン)ニ依リテハ増補訂正ヲ行フコトアルベシ。
三 本一覧表ニ記述セル以外ノ教科目ニ就テハ追ツテ之ヲ指示ス。
いかにも大急ぎで方向転換を図った感がある。対象となった教科書は、国語、国史、地理、算数、理科、習字、図画、工作、裁縫、家事の教科に及んだ。例えば、『ヨミカタ』巻1「ヘイタイサンススメ」全文削除、『ヨミカタ』巻2「ラジオノコト」「兵タイゴツコ」「シヤシン」全文削除。更に『初等科国語』巻4では、全文削除「船は帆船よ」「バナナ」「大連から」「観艦式」「大演習」「小さな伝令使」「大阪」「大砲のできるまで」「防空監視哨」「早春の満州」と多くなっている。これがいわゆる「墨塗り教科書」で、教科書がほうぼう墨でぬりつぶされた教科書を使っての授業再開であった。
12月31日「修身科・国史科・地理科の中止について」の指令が出された。これによって、修身・国史・地理については単に教科書に墨を塗るだけではすまされず、授業を中止し、教科書そのものを回収する事態になった[注釈8]。他教科についても昭和21年1月15日文部省より再度削除・修正の通牒が出された。全国の児童生徒が墨塗り教科書を使用したのであるが、4月からの暫定教科書ができるまで続いた。
昭和21年4月の新学期より教科書が発行された。国民学校用教科書としては、『ヨミカタ』1、『よみかた』2、『初等科国語』1、3、5、7、『初等科算数』1、3、5、7、『初等科理科』1、2、3、『初等科習字』1、2、『初等科裁縫』上、中、下、『高等科国語』1、3、『高等科算数』上、『高等科理科』1、『高等科裁縫』上、下、『高等科農業』上、下、『高等科英語』であり、用紙不足等により発行供給中止となった教科書もある。『コトバノオケイコ』、『カズノホン』、『ウタノホン』、『ヱノホン』、図画、工作などの初等科用教科書、高等科、図画、工作、工業下、工業製図上、下、商業上、下、簿記、水産上、下などである。
発行された教科書は、用紙不足の上に短期日に製造したため、16ページから32ページの折本のままとし、なかには分冊になったものもあるきわめて粗末なもので、めいめいで切って製本して使うありさまだった。この教科書は1年間だけ使われ、22年度からは新教科書が発行された。
昭和21年6月29日、地理の授業の再開許可がおりた。また10月12日には国史の授業の再開許可がおりた。いずれも新しい教科書が到着次第授業が再開された。特に国史に関しては国民学校用教科書『くにのあゆみ』、中等学校用『日本歴史』を使って授業をすることが条件になっていた。
国史・地理は、昭和22年に六・三制に学制が変わり、国民学校が小学校になると同時になくなり、社会科が新教科として誕生した。
関連資料:【文書】教育行政 修身・国史・地理授業の停止