教職員の海外研修には、文部省の行うもの、東京都教育委員会や区教育委員会の実施するものがある。これらのうち区教育委員会の派遣する海外研修[注釈15]について、昭和58年度(1983年度)実施した例をあげ概観したいと思う。
■目的と視察団
区のこの事業の目的は区立小・中学校・幼稚園の教員を海外に派遣し、諸外国の教育文化の実情を視察させ国際的視野に立つ識見及び教職に対する誇りと自覚を高め、本区の教育の振興を図ることにあるとされている。この目的に従って58年度はドイツ連邦共和国(西ドイツ)に派遣され、フランクフルトの基礎学校、基幹、実科学校、ミュンヘンの幼稚園を訪問して、ドイツ連邦共和国の学校経営、教育内容、指導方法を視察、あわせてドイツ連邦共和国の心身障害教育、姉妹校提携等の状況を視察している。視察団は団長(中学校長)団員8名(幼稚園教諭1名、小学校教諭5名、中学校教諭2名)他に指導室長となっている。
■日程
日程は昭和58年10月25日から11月2日まで9日間、主な視察研修先は次のとおりである。
第1日(10・25) 出発
第2日(10・26) フランクフルト市内見学
第3日(10・27) アンリー・デュナン・シューレ(基礎学校)エドワード、シュプランガーシューレ(基幹実科学校)視察。ミュンヘンへ。
第4日(10・28) シュテッライッシャー幼稚園、バイビンハウス(孤児園)視察
第5日(10・29) リース教会ノイシュバンシュタイン城見学
第6日(10・30) ローテンブルク等見学
第7日(10・31) カール・フリードリッヒツインペル・レアルシューレ(実科学校)、市庁訪問、シュトラートハウス市長レセプション、カール・フリードリッヒツインペル・レアルシューレの校長教頭ほか2名と懇談昼食会
第8日(11・1) フランクフルト発 帰国
第9日(11・2) 成田着・解散式
■事前の準備
1学期から出発まで研修など準備が行われた。研修は、ドイツの自然の歴史や伝説・社会風俗や制度及び教育事情などを理解するために行われ、自主的に研修計画を立てて行った。そして、その研修の成果の上に立って次の7項目についての質問事項を作成した。(1)学校経営について、(2)教育内容と指導方法、評価について、(3)心身障害教育について、(4)子どもの生活について、(5)父母や地域との関係について、(6)教職員の待遇について、(7)その他。
■現地での視察活動
① 学校制度など、本で理解したことが正しいかどうか確かめ、学校運営についても確かめた。
② 幼稚園や学校を見学し、教育活動の実際がどのように行われているか視察した。その他、教材教具及び施設設備なども合わせて視察した。
③ 児童、生徒のことでは、ドイツ在住の外国人の子弟が多いことなどに気付いた。それらの児童、生徒にも同じようにドイツ人としての教育をしているが、母国を尊重させることに留意している。港区の小・中学校にもドイツ程ではないが外国の児童や生徒がいる。これから国際化が進む上で参考になることが多かった。
④ 港区の児童、生徒の作品(絵・習字)や教科書などを持っていって、積極的に学校どうしの交流をしたいことを申し入れたが、現実には、言語上の障害やその他難しい問題もあり、じゅうぶんには願いが達せられなかった。
⑤ ドイツでは、日本と同じように、非行問題で悩んでいる。また、平等型の学校制度の改善が行われている。このような教育改革は南北によって進行の差異があることがわかり、教育の地方分権の姿も見ることができた。
⑥ 一国の教育はその国の教育風土によって育まれたものである。自然や街づくりの特性、人々との交流から教育上の特色を把握しようと努力した。
■事後の研修と報告
視察後、研修報告を作成するために、研修を更に重ねた。その報告書は、各学校に教育委員会を通じて配布された。また、区の教育センターで報告会を開いた。作成された資料などは区の教育センターに保管してある。
関連資料:【文書】教職員 <参考>教員等海外派遣