教育目標の変遷

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 港区教育委員会は、昭和40年代前半の行政の5カ年計画の策定にあたっては「人づくり」を重点施策の一つにあげ、これまで水準の高い行政を目ざしてきた。その柱を学校教育並びに社会教育の内容の充実と施設の拡充、整備に力を注いできた。
 昭和43年度(1968年度)において教育委員会としての港区立学校・園の共通努力点は、「健康・安全教育の推進」であり、①体力づくりの徹底 ②交通安全指導の強化の2点であった。
 更に、昭和43年7月に告示された小学校学習指導要領の改訂の基本方針を受け、区教育委員会は昭和44年度に教育目標の一部改訂を行った。次いで、昭和45年度には、「心身ともに健康で気品と風格のある児童、生徒の育成をはかる」ことを教育指導行政の重点とした。
 昭和45年度 港区学校教育のねらいは、次のように示された。
 
 心身ともに健全で気品と風格のある児童・生徒の育成をはかる。
 1 学校の一員としての誇りをもち、区民、都民、日本人としての自覚をもたせる。
 2 みずから進んで自己を鍛え、他人とすなおになじみ、協力し、励ましあって、よりよい方向に進ませる。
 3 正しい判断で行動できる勇気をもたせる。
 4 自分と同じようにひとを尊び、正しいことや美しいことをたいせつにさせる。
 都市のきびしい環境のなかで、健康で安全な生活ができるようにする。
 個性を生かし適性に応じ、児童・生徒の内にある可能性を伸ばす。
 調和と統一のある教育課程への改善と実施につとめる。[注釈2]
 
 その後、学校教育の重点目標などは年度ごとに港区立学校の実態、社会の進展に伴う学校教育への期待などから見直し、十分検討、審議されて部分的、あるいは全面的な改訂がなされてきた。
 昭和45年度に次いで、港区学校教育のねらいが大きく変わったのは昭和48年度であり、「心の交流や自然とのふれあいをたいせつにし、国際社会において信頼される日本人の育成をめざす」ことが、新たな課題として付加された。
 昭和48年度 港区学校教育のねらいは、次のように改善された。
 
  港区立学校の一員としての誇りと自信をもち、心身ともに健全で気品と風格にあふれ、心の交流や自然とのふれあいをたいせつにし、国際社会において信頼される日本人の育成をめざす。
  都心のきびしい環境のなかで、心身ともに健康で安全な生活ができるようにする。
  心の交流をいっそう深め、児童・生徒の内にある可能性をひき出すようにする。
  自然とのふれあいをたいせつにし、自らの環境の保全と整美につとめる。
  教育の本質と学校のあり方を深く考え、社会の負託にこたえる学校経営を推進する。
 
 昭和55年度から教育課程基準の改善により、人間性豊かな児童・生徒の育成をめざして、新学習指導要領にもとづいてゆとりと充実の教育活動が展開されることになった。
 昭和50年代前半は、これまでの産業や社会の著しい変化の影響を受けて、学校や地域における児童・生徒の教育上の諸問題が続出したときである。このような状況のもとに、区教育委員会は、これからの新しい社会に向かうための教育の方向を検討し、これまでの港区学校教育のねらいに「人間尊重の精神の高揚及び奉仕の精神に満ちた人間性豊かな日本人の育成をめざす」ことを新たな課題として付加した。
 また、指導の重点事項について人間尊重の教育・健康・安全の教育・生活指導・進路指導、基礎的・基本的内容の指導の観点をより具体的に示した。
 昭和56年度 学校教育の指導目標は、次のとおりである。
 
  人間尊重の精神の高揚と心身の健康増進を基本とし、国際社会において、信頼される気品と知性及び奉仕の精神に満ちた人間性豊かな日本人の育成をめざす。このため各学校では、心の交流や自然との触れ合いを大切にし、一人一人の経験を深めるように創意工夫する。
   人権尊重の教育
 1 すべての教育活動を通して、あらゆる偏見と差別をなくし、互いに尊重し協力するよう指導に努める。
 2 人権尊重教育の視点から、すべての教育活動についてその問題点を明確にし、指導計画・指導方法などを積極的に改善するように努める。
 3 学校及び地域社会が、心身障害者を正しく理解して連帯感を深め、また障害児の指導にあたっては、指導方法の開発を促進して、障害の種類や程度に応じた適切な指導に努める。
   健康・安全の教育
 1 すべての教育活動を通して、幼児・児童・生徒の健康の保持増進を図るとともに、一人一人が自らの健康つくりに努力するよう指導に努める。特に、体育指導においては、一人一人の特性を十分に生かし計画的に指導を展開するようにする。
 2 生活安全、交通安全については、具体的な指導により安全に対する関心や安全能力の向上に努め、さらに家庭、地域社会との連携を密にして、事故防止の徹底に努める。
 3 非常災害時の防災計画を確立し、幼児・児童・生徒や父母とのあたたかい触れ合いを通して、自己実現を図れるよう指導に努める。
   生活指導・進路指導
 1 一人一人の幼児・児童・生徒の発達課題や心情あるいは能力・特性などについて十分に理解を深めるように努める。さらに幼児・児童・生徒や父母とのあたたかい触れ合いを通して自己実現を図れるよう指導に努める。
 2 幼児・児童・生徒の発達を考慮して集団活動を促進し、基本的な生活習慣を確立させ、奉仕活動を積極的に実践するよう指導に努める。
 3 幼児・児童・生徒の愛校心を養い情操を高め、気品のある美しい学校生活環境を創造するよう指導に努める。
 4 全体計画のもとにきめ細かな学年・学級経営を進め、教師と父母、地域社会との連携を密にして問題行動の要因を把握し、その発生を全校一致して未然に防止するように努める。
 5 学習指導、生活指導及び進路指導との関連を図る。特に学習指導時においても生活指導に留意し、児童・生徒が意欲的に秩序ある学校生活を送るよう指導の徹底に努める。(後略)
   基礎的・基本的内容の指導
 1 日々の授業において、指導の目標や基礎的・基本的内容を明らかにし、一人一人の特性に応じたきめ細かな指導、助言を行うように努める。
 2 自ら考える力や正しい判断力を育てるため、子どもの反応や発言を重視した指導方法を工夫するように努める。
 3 効果的な教材、教具の開発や活用を図り、機能的な学習環境の創造に努める。
 4 形成的評価と総括的評価のあり方を具体的に追求し、基礎的・基本的内容が定着するように努める。[注釈3]
 
 更に、年々教育の課題は多様化し、区民の学校教育の役割に対する期待は、ますます増大してきた。
 区教育委員会は、昭和59年度を迎えるにあたって港区教育委員会の教育目標及び港区学校教育の努力の重点についてきめ細かく検討し、人間尊重、健康増進、国際理解及び生涯にわたる教育の推進を基調に学校教育並びに社会教育の目標を示した。
 また、学校教育の努力の重点については、昭和56年度の指導の重点に次の事項を付加して、指導・実践の指針を具体的に明確にした。
 
  人間尊重教育の改善と充実
  国民的課題である同和問題について、同和対策審議会答申ならびに地域改善対策特別措置法の趣旨を理解し、同和教育の推進に努める。
  児童・生徒が世界の人々の生活や固有の文化を理解し、人種的偏見をなくし、互いに尊重し、協力するような指導内容、方法の改善に努める。
  健康・安全教育の改善と充実
  環境衛生検査及び安全点検を計画的に行い、健康で安全な環境の保持と創造に努める。
  豊かな自然環境にふれる教育の機会を積極的にもち、その指導内容及び方法の開発に努める。
  生活指導、進路指導の改善と充実
  問題行動については、その要因を全校一致して把握し、教師と父母、地域との連携を密にし、その発生を未然に防止するように努める。
  学習指導の改善と充実
  地域環境の活用及び幼児・児童・生徒の発達課題に即した効果的な教材、教具の開発に努める。
  姉妹校交流活動・JRC活動の推進を図るとともに、国際理解教育の指導内容及び方法の開発に努める。
 
関連資料:【文書】教育行政 東京都港区教育委員会の教育目標(昭和56年度~平成5年度)