幼稚園と小学校の連携

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■幼児教育における研修
 区では、昭和53年度(1978年度)から平成10年(1998)ごろまで年に2回、「幼児教育研修会」を実施してきた。幼児の登園から降園までの様子を公開し、研究課題に対して協議を行うものであった。
 平成28年度からは、公私立幼稚園の連携により「幼児教育研修会」を立ち上げ、年に1回ないし2回(平成28・29年度は1回、30年度・令和元年度は2回)開催している。幼児教育の充実と教員の資質の向上を図るため、企画段階から公私立幼稚園が連携し、研修の内容や方法を検討して実施している。小学校教員や保育士も、この研修会に参加している。
 また、港区には、中学校通学区域を単位とした10の研究組織「アカデミー」がある[図15][図17]。幼稚園・小学校・中学校が連携を強化し、学力の向上や人間性・社会性の育成を目指す組織であり、幼・小中一貫教育が進められる中、平成24年(2012)に立ち上げられた。各園や学校が学期ごとに1回、公開保育や授業を順番に行う他、校種の特色や教育内容への理解を深め合いながら連携して研究に取り組むなどの研修を行っている(アカデミーについては、第2節第1項(2)124ページを参照)。

[図15] 港区のアカデミー一覧
出典:『港区の教育』令和元年度版

 各アカデミーはそれぞれに教育ビジョンと目指す子ども像を掲げ、1年ごとの達成目標を示した上で具体的な教育活動を展開する。加えて、3年から5年後の達成目標を示し、中・長期的な展望のもと、「学校(幼稚園)づくり」についての段階的なビジョンを明確化している。
 幼・小中一貫教育は、「港区教育ビジョン」(平成26年度策定)の下位計画「港区学校教育推進計画」の中で、平成27年4月からの教育施策の一つに位置づけられている。幼児期の教育(3年間)、小・中学校の義務教育(9年間)の計12年間を連続したものとして捉え、この期間を見通した指導方針をもって子どもたちに向き合うことで、小・中学校の連携の強化、教育課程の連続性確保による学力の向上、さらには豊かな人間性、社会性を育むことを目的としている。

[図17] 平成29年度 各アカデミーの目指す子ども像
出典:『港区学校教育推進計画』平成30~32年度

 幼・小中一貫教育は教職員の意識向上にも寄与している。この取り組みが始まって以降、小・中学校の教員同士が教科研究を共同で行ったり、子ども同士の作品交流や学校行事を通しての交流・学校便りの交換などが行われるようになり、柔軟な発想の中で幼・小中一貫教育を進めていくようになった。
 
■小学校入学前教育カリキュラム
 ●みなときっずなび 「育ちと学び」をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム
 平成25年度(2013年度)、各総合支所、子ども家庭支援部、教育委員会の連携により、公私立幼稚園・保育園、小学校の代表者らからなる検討委員会が発足し、平成27年度、[図18]の『みなときっずなび 〈育ちと学び〉をつなぐ 小学校入学前教育カリキュラム』を策定した。すべての子どもの育ちを支え、幼児期の教育の質を高め、伸ばしていくことを目的としている。小学校教育との連携や相互に見通しを持った教育が推進されるように、5歳児から小学校入学後1学期までの港区独自のカリキュラムを示している。

[図18] 小学校入学前教育カリキュラム
出典:『みなときっずなび教育カリキュラム』平成27年

 「小学校入学前教育カリキュラム」では、次の三つの力を学校教育へつなぎ、貫く3本柱とし、具体的な活動例や指導内容を示して、小学校への滑らかな接続を目指している。
   ◎生活する力……自分のことは自分でする/健康で安全な生活をする/体を十分に動かし、進んで運動しようとする
   ◎発見・考え・表現する力……好奇心や探究心をもってものとかかわる/感じたこと・考えたことを言葉で伝える/文字や数量などの感覚を豊かにする
   ◎かかわる力……あいさつをする/人とかかわる/きまりや約束を守る
 
 この「小学校入学前教育カリキュラム」の完成により、保育園・幼稚園と小学校との連携や交流も重要視されるようになり、平成26年度より開始した保幼小合同研修会の公開保育などを通して共通理解を図っている。
 また、5歳児の幼児が自ら考え、主体的に生活することを目指した「5歳児指導ポイント集」も作成された。本事例を日常的に活用することで、円滑な小学校教育への接続を目指している。
 
 ●アカデミーにおける公開保育・授業
 平成25・26年度には、区研究パイロット園として「小学校入学前教育カリキュラム」を活用した事例や、アカデミーにおける研究の成果を情報発信した。これらは、「交流・連携・接続」の視点で保幼小の連携の必要性を捉え、研究を進めたものである。そして、次の四つの提言を行った。
 ① 保幼小交流を特別な取り組みと考えず、身近な活動として始める
 ② 計画は綿密に見通しを持って、実践は幼児に合わせて柔軟に対応する
 ③ 組織的な運営を要に、教員・保育士のつながりを深める
 ④ 保幼小の地域の子どもとしてのつながりや交流の意義を発信していく
 
 ●南山幼小連携カリキュラム
 平成26年度(2014年度)に策定された「港区教育ビジョン」で幼・小中一貫教育の推進が示されたことを受けて、同一敷地内にある南山幼稚園と南山小学校では平成28・29年度に共同研究を実施し、「南山幼小連携カリキュラム」を作成した。
 このカリキュラムは、教育委員会作成の「小学校入学前教育カリキュラム」を取り込む一方、「どの学年においても年間を通して教師が意図的に交流活動などを計画していくことが、相互の生活や学びを豊かにすることにつながる」(南山幼稚園・南山小学校『平成28・29年度研究紀要』)との考えのもと、幼稚園と小学校を「連続した9年」と捉えている。幼稚園と小学校の教師が「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を共有し、連携を強くすることで、幼児教育から小学校教育への円滑な接続を図ること、各学年の発達段階に応じ、同学年、異学年、地域の人々など、さまざまな人との関わりを重視することなどが特徴となった。

[図16] 南山幼稚園・南山小学校連携カリキュラム
出典:『港区教育委員会研究パイロット園・校研究紀要』平成28・29年度より作成

関連資料:【文書】教育行政 港区教育ビジョン すべての人の学びを 支え つなぎ 生かす
関連資料:【文書】教育行政 港区学校教育推進計画[平成27年2月刊]
関連資料:【文書】幼児教育 みなときっず「育ちと学び」をつなぐ小学校入学前教育カリキュラム
関連資料:【学校教育関連施設】