教育課程の工夫と授業時数の確保

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■学校週5日制
 学校週5日制は、平成4年(1992)からの段階的な施行を経て、平成14年より完全実施された。詰め込み教育から脱し、「各学校が『ゆとり』の中で『特色ある教育』を展開し、子どもたちに学習指導要領に示す基礎的・基本的な内容を確実に身に付けさせることはもとより、自ら学び自ら考える力などの『生きる力』をはぐくむ(※1)」ためである。社会全体が週休2日制を導入し始めるなど、勤労者の労働時間短縮の動きがあり、公務員や教職員らの学校関係勤労者の労働環境の改善を図るという側面もあった。
 この週5日制により、子どもが土曜日に地域社会と関わることや、自らが興味を持った事柄を深く掘り下げる学習へ時間を充てることが期待された。しかし、授業時数の縮減は学力低下への懸念を抱かせた。平成15年には、学習指導要領が一部改訂され、標準授業時数を超す授業時間の確保などが盛り込まれた。ゆとり教育から学力重視へ、早くも舵(かじ)が切り直されたともいえる。
 当時の新聞記事を見ると、「家族で過ごす時間が増えた」と完全週5日制を肯定する声がある一方で、「学力低下を心配する声があり(中略)親の70パーセント以上が、学校に補足的な学習指導を望んでいた」ともある。また「塾に行かせたり、家庭教師をつけたり」する小学生のいる家庭が37パーセントあるという結果も報道された(読売新聞 平成15年3月3日付)。
 港区は、平成17年度から土曜日に「土曜特別講座」を開設した。完全週5日制実施の3年後である。
 この試みは、児童・生徒の学習習慣の確立とともに学力の向上を図るために行われたもので、少人数指導充実のために区費で講師を派遣するなどの取り組みを行った。
 その内容は、全区立小学校の5年生を対象として、土曜日の午後に「科学教室」「作文教室」を実施するものである。中学生に対しては、土曜日に全20回の特別講座を開催し、国語・数学・英語の基礎的な内容の学習講座を実施している(中学校の事業は平成28年度から「学力アップ特別講座」という名称に変更)。平成19年5月の教育委員会定例会会議録によれば、中学生の申込率は1年生が75パーセント、2年生が45パーセント、3年生が50パーセントとなっており、参加した生徒の感想は「学習への意欲が引き出されてきた」「丁寧に熱意をもって指導してもらえるので信頼関係を感じている」といった肯定的な意見が多かった。
 さらに、区では平成22年4月から月1回、教育課程に位置づけた土曜授業を行っている。平成23年度以降は、平成20~21年改訂学習指導要領の実施に向けて月に2回(第1・第3土曜日の午前中)実施している[図6]。平成25年の学校教育法施行規則の一部改正により、土曜日に授業が実施できるようになったことを踏まえると、区はかなり早い時期から先進的な取り組みをしていたといえる。

[図6] 地域の豊かな社会資源を活用した土曜日の教育支援体制等構築事業
出典:文部科学省「土曜日の教育活動プラン」平成26年度より作成

 ちなみに東京都教育委員会では、平成22年1月14日付で小・中学校において土曜授業を実施できる旨の通知を出しており、同年9月24日時点では小学校で125校、中学校で23校が東京都の支援事業を活用して土曜授業を行っている(平成22年第15回東京都教育委員会定例会会議録)。
 なお、標準的授業時数は、平成29年の学習指導要領の改訂(実施は小・中学校とも平成30年度)に合わせ、小学6年生が1015時間(平成14年度の945時間から、新課程となった平成23年度の980時間を経ての変更)となっている。中学校に関しては、平成23年には3学年すべてで980時間だったものが、1015時間となった。
 
■学校選択希望制
 児童・生徒が公立学校へ行く場合、学校教育法施行令第5条により、市町村教育委員会は就学予定者の就学すべき小・中学校を指定することとされている。この制度は維持しながら、平成9年(1997)、文部省(当時)が出した「通学区域制度の弾力的運用について」の通知がきっかけとなり、学校を指定する場合にあらかじめ保護者の意見を聴取できるようになり、各地で市町村立小・中学校の指定校の制度が弾力化していくこととなった。この背景には、国の地方分権、規制緩和を進める流れがあった。
 全国で最も早く学校選択制を導入したのは三重県紀宝町(きほうちょう)だった(平成10年)。ついで平成12年には、品川区が導入を開始。港区では平成14年から導入について教育委員会定例会で討議がなされた。また、学識経験者、校長、園長、PTA、区民で構成された「これからの港区の教育を考える委員会」の中間まとめで答申され、平成15年度新入学の児童・生徒から実施となった。
 導入の背景には、指定校(通学区域に基づいて、教育委員会が定めた児童・生徒の入学校)への進学割合が低下傾向にあり、特に私立中学校への進学などで区立小学校から区立中学校への進学割合が60パーセントを下回っている状況があった。そのため、「魅力ある学校教育」「特色ある学校づくり」への抜本的な対応策が不可避となっていたのである(平成14年港区教育委員会第6回臨時会より)。
 学校選択制には、各市町村によって、いくつかのパターンがある[図7]。

[図7] 学校選択制の分類
出典:文部科学省ホームページ「よくわかる用語解説 学校選択制」

 区では、小学校で「隣接区域選択制」[図8]、中学校で「自由選択制」が採用されている。

[図8] 小学校隣接校一覧
出典:港区ホームページ「小学校隣接校一覧」より作成

関連資料:【文書】中学校教育 区立中学校の授業時数(城南中学校 平7)
関連資料:【文書】教育行政 「これからの港区の教育を考える委員会」報告書(平成14)
関連資料:【文書】小学校教育 区立学校の通学区域(平6)
関連資料:【図表および統計資料】教育行政 小学校
関連資料:【図表および統計資料】教育行政 中学校