区の〝特色ある教育施策〟における英語教育

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 区立小学校では、全国に先駆けて特に英語教育に力を入れてきた。これは、区内に在日外国公館が多く存在し、区の人口の約8パーセントが外国人であることから、外国人の児童・生徒も区立小・中学校に通うなど、異国の言語、文化と接触する機会が多いことを区の特性と考え、特色ある教育施策として展開したからである。
 こうした動きは平成13年(2001)ごろから強まった。平成13年5月には「これからの港区の教育を考える委員会」で「国際人育成学校(インターナショナルスクール)の設置」など、国際化を進めることで区の特色を強めようという意見が出ていた。同年度には、教育委員会によって区立小・中学校にネイティブ・ティーチャー(NT)を1日単位で配置、また小学校のすべての学年・学級で年間6時間程度の英会話学習を実施している。
 同委員会報告書(平成14年11月)では「港区には、多くの大使館があり外国籍の方々が多く在住しています。こうした地域特性から、英語が使え、広く国際的な視野をもった港区の子どもを育成する必要があります」との答申もあり、加えて「国際理解教育を推進する立場から、自国文化の理解や異文化に触れる機会の拡大、外国人講師の配置の拡大による小学校段階からの英会話学習の一層の充実について検討することが必要です」と記している。
 平成16年度になると、「港区における英語教育推進委員会」が設置され、より国際理解教育を進めるために構造改革特別区域計画の認定申請をした結果、平成17年に「国際人育成を目指す教育特区」として認定された。これは英語を使う実践的能力を養い、国際コミュニケーションの基礎を培うとともに、国際理解を深め、国際人としての資質を育成することを目的としている。

 


[図9] 港区における国際理解教育概念図
出典:「平成28年度第2回港区総合教育会議参考資料」より作成

 教育特区として認定された翌年、平成18年4月からは、小学校8校(芝小学校、三光小学校、神応(しんのう)小学校、港南小学校、南山小学校、筓(こうがい)小学校、東町小学校、青山小学校)を特区校に指定し、国際科を新設して以下のような取り組みを展開した。
 
■学校教育
 ●国際科の新設
 ・授業時数は1週当たり2時間、うち1時間は児童が毎日英語に触れるよう分割可能。
 ・国際科独自の教科書および教材を作成。
 ・授業は原則、学級担任と、各校に1人配置されるネイティブ・ティーチャー(NT)が協力して行う。
 ・指導内容の調整、課題の整理などについて指導助言する英語教育アドバイザーを配置。
 
 国際科は平成19年度(2007年度)には新たに11校(御成門小学校、赤羽小学校、芝浦小学校、御田(みた)小学校、高輪台小学校、白金小学校、麻布小学校、本村小学校、赤坂小学校、青南小学校、港陽小学校)に開設され、区内の全小学校に新設されることになった(これらのうち、三光小学校、神応小学校、朝日中学校が統合され、小中一貫教育校「白金の丘学園」となった)。
 国際科の設置の他、区が独自性を持ち取り組んでいる国際理解教育には以下のような内容のものもある。
 
■外国人児童・帰国児童の学校環境
 ●国際学級
 公立小学校における国際学級の設置は、全国の自治体で唯一の取り組みである。これは日本語適応指導の一環として取り組まれており、外国人児童に多様な教育の機会を提供し、日本人と外国人双方の児童が国際理解を深めることを目的としている。平成20年度(2008年度)から検討が始まり、同年度には「港区新たな国際教育に関する懇談会」を設置し、翌年に出された報告書で国際学級の設置が提案された。
 さらに平成22年度には東京学芸大学に調査研究を委託し、国際学級の開設に向けた試行実験を開始した。こうした経緯を経て、平成24年度には東町小学校に、平成29年度には南山小学校に国際学級が開設された。東町小学校は平成3・4年度に文部省(当時)の指定する外国人児童教育研究協力校13校のうちの1校であったこと、平成18年、「国際人育成を目指す教育特区」による国際科授業をいち早く取り入れて実施したパイロット校であったことなどが選定理由となっている。
 国際学級は各学年の通常の学級に1クラスずつ設置し、各クラスとも10人程度の外国語を母語とする児童を受け入れる。イングリッシュサポートコース(ESC=English Support Course)を設置し、担任と国際学級講師(EST=English Support Teacher)の2人体制で学級運営に当たる。ESCの児童にはESTが英語で指導に当たり、日本人児童には担任が日本語で授業を行う、というものである。双方の児童が同じ教室にいながら多様性を理解し、国際的感覚を身につけることが期待できる。
 英語を母語とする児童は、国語、算数、社会の各教科は英訳した教科書を使い、英語による授業を別室で受けるが、その他の教科、活動は他の児童と共に日本語で学んでいる。
 国際学級は日本語を母語とする児童の英語力向上を目的としたものではないが、結果的に、多様な文化や価値観に触れることとなり、双方の児童にとって国際理解を深める機会を提供している。

[図10] 教育指導イメージ
出典:『国際学級のご案内』より作成

 ●日本語学級(日本語適応指導)
 平成3年度(1991年度)から、筓小学校に「日本語学級」を開設した。区内の小学校に通う、日本語を母語としない外国人児童や、海外から帰国し日本語能力が十分ではない児童が日本語学級で漢字や文法などを学んでいる。
 平成30年4月には、麻布小学校にも日本語学級が開設された。両校の日本語学級への通級が困難な児童には、基本的に児童の母語で指導できる日本語適応指導員を在籍校に派遣して、日本語指導などを行っている。
 日本語学級は麻布小学校に開設されたのと同時に、六本木中学校にも開設している。詳細は第2節第3項(3)209ページを参照。

[図11] 日本語適応指導を要した児童・生徒合計数
出典:『港区の教育』平成29年度版、令和元年度版より作成


[図12] 日本語学級の学級数と児童数

 

出典:『開設10周年記念誌 日本語学級のあゆみ』平成3~12年度、『港区の教育』平成13~令和元年度版より作成
*児童数は各年度4月時点。平成13年度からは5月1日現在
*平成30年度は生徒数22人(2学級)、令和元年度は生徒数21人(2学級)を含む


■その他国際理解教育
 
 ●小学生の海外派遣
 平成19年度(2007年度)から、夏休み期間に、各小学校代表児童のオーストラリアへの派遣を開始。代表は各学校から6年生のクラス数と同じ人数を選出した(平成30年度実績は代表40人)。その後は学級数の増加に伴い、学校規模に合わせて選出する形となっている。派遣児童は体験入学として、ビクトリア州メルボルン市のホームステイ先から現地の学校に通い、英語によるコミュニケーション能力を鍛える他、外国の自然や文化、歴史、社会に直接触れることで、国際理解や国際感覚の基礎を育んでいる。
 
 ●国内留学プログラム
 平成22年度(2010年度)から、区立小学校5・6年生、区立中学校1・2年生の希望者を対象に、テンプル大学ジャパンキャンパスが実施する「国内留学プログラム」への参加を開始した。夏休み期間中に大学へ3日間通い、外国人講師や学生から、英語の表現力やコミュニケーションスキルを学んでいる。
 
 ●異文化体験授業の実施
 テンプル大学ジャパンキャンパスに外国人学生らの派遣を依頼し、各国の民族衣装や食文化に触れる学習(異文化体験授業)を展開する。
 
関連資料:【文書】教育行政 「これからの港区の教育を考える委員会」報告書(平成14)
関連資料:【文書】小学校教育 国際理解教育の推進(東町小学校)
関連資料:【図表および統計資料】教育行政 小学校 割合/児童数(国公私立)(公立のみ)
関連資料:【図表および統計資料】教育行政 中学校 割合/生徒数(国公私立)(公立のみ)
関連資料:【図表および統計資料】学校教育 国際学級外国人児童数
関連資料:【図表および統計資料】学校教育 日本語適応指導を要した児童・生徒数
関連資料:【図表および統計資料】学校教育 小中学生海外派遣人数
関連資料:【図表および統計資料】学校教育 国内留学プログラム応募人数/異文化体験授業時間数
関連資料:【学校教育関連施設】
関連資料:【くらしと教育編】第14章第4節 (5)国際科、国際学級の設置