港区でも、昭和63年(1988)には区立小・中学校でコンピューター試行導入を実施、小・中学校での情報教育の実施を定めた学習指導要領の改訂を受け、平成元年度(1989年度)には教育センター事業で情報教育の研究を開始し、翌年度には小・中学校への本格的なコンピューターの導入を始めた。平成4年度には教育センター研究室活動で情報教育の研修を開始し、さらに平成17年度には、教育委員会の示す教育目標の基本方針に、「ITを活用した教育」の推進を加え、平成26年度には学校教育における情報化分野の行動計画「港区学校情報化アクションプラン」を策定した。平成期の主な情報化の取り組みを[図22]に時系列で示す。
[図22] 平成期、小・中学校の情報化の取り組み
※港区教育委員会事務局作成
■学校情報化アクションプラン
平成25年度(2013年度)末まで、港区立小・中学校でICT(※4)を活用した授業の実施率は30パーセントにとどまっていた。そうした状況を改善するため、平成26年3月に、平成26年度から29年度までの4年間の学校教育における情報化分野の行動計画「港区学校情報化アクションプラン」を策定した。アクションプランに基づき、小・中学校では、情報端末や電子黒板、デジタル教材などを授業に活用する、時代のニーズに対応した情報教育の推進を目指した。さらに、平成30年3月には、新たな3年間の行動計画(新アクションプランと略称)を策定している。
平成26年策定のアクションプランは、①ICTを活用した理解を深める授業の実現、②学校間ネットワークの確立と校務情報化の推進、③ICT環境の安全安心の確保、の三つを目標とし、基本方針として、①児童・生徒の情報活用能力の育成、②教科指導におけるICTの活用と活用能力の向上、③校務の情報化の推進、④地域の拠点として災害に強い学校づくり、⑤運用管理体制の強化、の5項目を掲げた。
基本方針に基づき、「教育用パソコンの配備」「インターネット接続環境の改善」「電子黒板の追加配備」など19の施策を実施した。進捗状況を3段階で採点した最終年度の評価では、16の施策がA判定を受けた[図23]。
[図23] 平成26~29年度のICT整備状況
出典:『港区学校情報化アクションプラン』平成30~32年度
教育委員会は、評価とともにICT教育の課題を明らかにするため、区立の全小・中学校を対象にアンケート調査も実施した。その結果、小学校では授業でのICT利用率が40パーセント前後にとどまるなどの課題が浮かび上がった[図24][図25]。
[図24] 小学校学年別のICT利用率
出典:『港区学校情報化アクションプラン』平成30~32年度より作成
*ICT利用率:ICTを利用した週当たりの授業数/週当たりの全持ち授業数
[図25] 中学校教科別のICT利用率
出典:『港区学校情報化アクションプラン』平成30~32年度より作成
*ICT利用率:ICTを利用した週当たりの授業数(教科別)/週当たりの教科別授業数
アンケートと同時に小・中学校各2校で実施したヒアリングでは、「教師自身の活用スキルに自信がないため、ICT支援員のサポートがないと授業で使用が難しい」「タブレット端末の活用効果がわからないため、活用の方法がわからない」「どの児童・生徒も操作支援を受けずにタブレット端末を使用できるとは限らないので、教師が望む使い方ができない」「授業で急に取り入れることで、生徒が学習内容ではなく操作に集中してしまうと考えており、タブレットを授業で導入しにくい」など、ICT活用の課題を指摘する声が聞かれた。
アクションプランの評価とアンケート調査結果などを踏まえ、平成30年に新たに策定した新アクションプランでは、①新しい時代に必要となる資質・能力を育む、ICTを活用した「主体的・対話的で深い学び」の実現、②教員のICTを活用した指導力の向上と、校務の効率化による児童・生徒と向き合う時間の創出、③日常的に活用できるICT環境の整備と教育情報セキュリティの確保、の三つを目標とし、基本方針として以下の6項目を掲げている。
①ICTを活用した授業の充実、②ICT機器等の充実、③教員のICTを活用した指導力の向上、④ICTを活用した校務の効率化、⑤ICT環境の整備の推進、⑥教育情報セキュリティ体制の強化
基本方針の下、ICTを活用した授業を効果的に実施するため、各学校において、タブレット端末や電子黒板などICT機器のさらなる整備や、デジタル教科書や授業支援ソフトなどの更新を計画的に進めている。
■情報教育研究
●旧飯倉小学校の事例
パソコン教室の設置やインターネット接続環境の整備など、情報機器を利用できる環境が整備されていく中、飯倉(いいぐら)小学校(平成16年麻布小学校へ統合)は、その環境を教育に生かす先進的研究を行った。平成9年度(1997年度)と平成10年度には研究奨励校の指定を受け、「すすんで活動する子供を育てる インターネットなどの利用を通して」を主題とする研究を実施、さらに、平成11年度にも独自に「進んで活動する子どもを育てる~インターネットを利用した出会いや交流を通して~」を主題とする研究を行った。
平成9・10年度の研究では、各学年の児童が成長に応じた課題に取り組んだ。第1学年は国語の時間に、福井県福井市立一乗小学校の同学年の児童と電子メールで自己紹介などの情報を交換したり、テレビ会議システムを利用して「音読発表会」を実施したりするなどの交流を続けた。第2学年は学級活動で中米・コスタリカの日本人児童と電子メールで交流、第4学年は国語の時間にインターネット検索でカブトガニや恐竜の情報を収集、理科の時間にはケナフという一年草の植物の観察日記のホームページを作成し、インターネットを利用して「全国発芽マップ」にも参加した。第5学年は学級活動でクラスのホームページを作成、第6学年は図画工作の時間にインターネットで画像の素材を集め、パソコンでコラージュ作品を制作した。
平成11年度も、インターネットを通じて情報交換を行うなど、他校児童との交流を深める研究が行われた。
なお、他校の児童とは、インターネット空間にとどまらず、相互訪問やホームステイなど、実際の出会いを通しても交流している。
わが国でパソコンの普及が飛躍的に加速したのは、Windows95が発売された平成7年であり、飯倉小学校で研究が開始されたのは、そのわずか2年後のことであった。パソコンに習熟した教員が少なかった上、市販の学習ソフトも充実していなかった。そのため、教員の多くはパソコンの操作法や利便性を学ぶところから研究を始め、コンピュータを利用した教育の可能性について議論を戦わせるなどの苦労を重ねて、研究を実施した。
●旧神応小学校・苅宿俊文氏の事例
平成4年(1992)、神応小学校では、苅宿俊文氏が担任を務めた6年1組で、情報機器を活用してさまざまな授業を展開する先駆的な試みが1年間にわたって実施された。NHK学校放送番組プロダクション、アップルコンピュータ(当時)、富士通、松下電器産業(当時)などの協力を得て、22人の児童一人ひとりにノートパソコンが支給され、教室には小型ビデオカメラなど当時の最先端情報機器をふんだんに導入した。港区内の各小・中学校にパソコン教室が整備される以前のことだった。
この試みは、NHKの取材班により記録され、「教室にやってきた未来」のタイトルで平成5年3月20日に放送された他、日本放送出版協会(現・NHK出版)より『教室にやってきた未来―コンピューター学習 実践記録』(佐伯胖、佐藤学、苅宿俊文、NHK取材班著)として発行され、当時の教育界で大きな注目を集めた。
同書の記述を引用し、苅宿学級で行われた試みの一端を紹介する。
「どんな〈未来〉がきたのか」
本書は『教室にやってきた未来』という題名である。どんな「未来」がやってきたのだろう。第一に言えることは、コンピューターやレーザーディスクなどのハイテク機器を、現時点で考えられるかぎりふんだんに導入された教室を実現した、ということである。具体的には、子どもひとり一台ずつノート型パソコンを持って、教室の自分の机だけでなく、校内のどこへでも、また野外へでも自宅へでも、自由に持ち出せる。小型ビデオカメラも自由に持ち出してふんだんに撮影できる。それらを学校にある編集機を使って編集し、視聴覚室にある高機能パソコン上で音声付きカラーで表示できる。そこではペン入力で詳細な描画を入力できるし、多種多様なレーザーディスクからの映像やCD―ROMからの映像も自由にカットして取り込んだり、スキャナーで図鑑の絵図や写真を取り込んだり、テープに収録した音声も取り込んでハイパーメディア作品が作れる。それらをクラス全員が同時に同じ画面で観賞してコメントできる。学校内の学級内、学級間のネットワーク通信でお互いに電子メール交換ができる。外国(具体的にはカナダ)の学校とハイパーカードによる通信もできるし、両国間で同時に一つの画面を共有して、共同作品を作れる、などなど、とてもここですべてを紹介しきれない。
『教室にやってきた未来―コンピューター学習 実践記録』 序章「教室に未来がやってきた」より
関連資料:【文書】教育行政 港区学校情報化アクションプラン[平成26年3月刊]
関連資料:【文書】小学校教育 コンピュータによる教育
関連資料:【文書】教育行政 港区学校情報化アクションプラン[平成30年3月刊]
関連資料:【学校教育関連施設】