平成元年(1989)改訂、同4年実施の学習指導要領は、「個性を生かす教育」を打ち出した。これを受け、文部省(当時)は平成5年度から12年度に実施した第6次公立義務教育諸学校教職員定数改善計画(以下、教職員定数改善計画と略記)において、「個に応じた多様な教育」を展開するため、教員定数を3万400人増加させ、複式学級の編制標準の改善、不登校対応、コンピュータ教育加配、生徒指導担当教員らの教員配置率の改善、などを目指した。その一環として「ティームティーチング等指導方法の工夫改善のための定数加配措置」が創設された。
文部省の教員定数加配措置を受け、港区は研究奨励校等によるTT(ティーム・ティーチング)に関する研究を盛んに実施し、研究成果を踏まえ、各校でTTは導入されていった。
研究の中には、加配措置に先立つものもあった。平成3・4年度には、区の研究奨励校の指定を受けた本村小学校が「一人一人を生かした学習指導法の研究―協力的指導による授業の工夫―」を主題とし、TTとコース別(習熟度別)学習の研究を実施した。授業は教室より広いオープンスペースを活用し、低学年の生活、中学年の算数、高学年の国語でTTを導入し、低学年には3人の教員を、中・高学年には2人の教員を配置し、役割を分担して「個に応じた教育」の方法を研究した。例えば、中学年の算数では1人の教員が習熟度の十分でない児童の指導に当たり、もう1人が全体の進度を見守り支援するという役割分担を行った。
その他、平成6・7年度には区の研究奨励校に指定された赤坂小学校が算数、社会、生活、体育でさまざまな形態のTTの研究を実施、平成7・8年度には文部省小学校教育課程研究指定校の指定を受けた青山小学校が「21世紀を生き抜く力を育てる―児童の自己学習力を高める指導法の研究」の主題で、2人以上のTTを研究した。また、平成8年度から10年度には、東京都教育委員会人権尊重教育推進校の指定を受けた三光小学校が、生活、算数、社会、音楽でTTを実施し、研究を行った。
TTの研究は、少人数による授業などの拡充のため教職員の定員を増加した第7次教職員定数改善計画(平成13~17年度)が実施された平成13年度以降も、少人数指導の研究と並行し、盛んに行われた。
■少人数指導
平成10年(1998)に改訂され、14年度から実施された学習指導要領では、少人数指導と習熟度別指導を可能にする教職員数の改善が明示された。文部科学省は学習指導要領の改訂に続き、前述の通り、平成13年度から第7次教職員定数改善計画を実施、さらに、平成18年度から22年度にも、少人数教育の一層の推進を図ることなどを狙いとして第8次教職員定数改善計画が実施された。
これを受け、港区の小学校は、個に応じたきめ細かな指導の充実を図るために、学級の枠を超えて学習集団を弾力的に編成した。コース別授業、少人数指導による指導方法や指導体制を確立するため、さまざまな研究を実施した。TT同様、研究成果を踏まえ、各校で少人数指導が導入されていった。
●少人数指導の研究(青南小学校・麻布小学校の事例)
平成15・16年度には、区研究奨励校の指定を受けた青南小学校が、「考える楽しさ 伝え合ううれしさ わかるよろこび コース別学習の展開を通して」を主題として、少人数のコース別学習の研究を実施し、第3学年以上の国語と算数の授業でコース別の少人数指導を導入して、児童の習熟度に応じたきめ細かな指導を実践した。
第4学年算数の授業を例に取ると、「考える力」と「伝え合う力」を尺度にして児童を習熟度別に「じっくりコースⅠⅡ」「しっかりコースⅠⅡ」「しっかりコースⅢⅣ」「チャレンジコースⅠⅡ」にグループ分けし、一斉学習の後、TTによるコース別学習を経て、まとめの一斉学習に取り組む、といった授業を展開した。
研究の成果として「自分の力にあった学習を選び、進めることができる」「自己選択できるコース設定なので、興味・関心を持続して学習に取り組むことができる」「皆と同じベースなので一緒に学習を進めていくことができる」「自分の考えを発言する機会が増え、話し合いを積極的に行えるようになった」「担任・少人数指導教諭・講師などさまざまな先生に出会え、色々な考え方や教え方に触れることができる」などと報告がされた(※6)。
平成14・15年度に区研究奨励校の指定を受けた麻布小学校は、国語、算数、理科の各科目でTTを導入し、単純2分割、興味・関心別、課題別、習熟度別などのさまざまな形態で少人数指導を実施した。
その他、多くの小学校でTT、少人数指導、コース別・習熟度別指導などの研究が実施された。詳細は第2節第3項(3)を参照。
●区費講師の配置
区は少人数指導を実施するため、文部科学省の政策により増加した教員に加え、平成16年度(2004年度)から、「学力向上事業」として予算措置を行った。児童数が20人を超える小学校第1学年の学級と、学力向上を目的とするコース別授業を実施する小・中学校を対象に、区費講師の配置を開始した。
■総合的な学習の時間
平成10年(1998)告示の学習指導要領により、平成14年度から「総合的な学習の時間」が創設され、第3学年以上の各学年で、「変化の激しい社会に対応して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることなどをねらいとする」授業が展開されることとなった。
「自然体験やボランティア活動などの社会体験、観察・実験、見学や調査、発表や討論、ものづくりや生産活動など体験的な学習、問題解決的な学習を積極的に取り入れること」との要請を受け、区立小学校では平成11年度より、3年後に開始される総合的な学習の時間を有意な授業とするため、さまざまな研究を実施した。
区研究奨励校などの指定を受けた主な研究主題とその概要を示す[図30]。
[図30] 研究奨励校等指定の主な研究事例
※港区教育委員会事務局作成
関連資料:【文書】小学校教育 ティームティーチング(本村小学校 平6)(平5・6・7)
関連資料:【学校教育関連施設】