指導要録に記載する児童・生徒の学習や活動の評価の方法は、学習指導要領の示す教育方針によって決定される。そのため、学習指導要領が改訂されると、それに対応して評価の方法は変更され、指導要録の記載内容も改訂されてきた。
■平成3年 指導要録改訂
平成元年(1989)の学習指導要領改訂で新しい学力観が打ち出されたことを受け、平成3年の文部省(当時)通知によって指導要録の改訂が指示された。中学校は同年入学者用から、小学校は平成4年度から全学年同時に、指導要録が改訂されることとなった。
新しい指導要録の学習評価は、従来通り「観点別学習状況」「評定」「所見」の3項目だが、新しい学習指導要領が求める各教科の目標や内容を踏まえ、「観点別学習状況」の観点を改めた。
国語の「観点」は、改訂前の要録[図41]では「言語に関する知識・理解」「表現の能力」「理解の能力」「書写」「国語に対する関心・態度」の5点であったが、改訂後は、「国語に対する関心・態度」を「国語への関心・意欲・態度」に改めた。同様に、社会、算数、理科でも、従来の「関心・態度」を「関心・意欲・態度」に変更し、評価で児童の「意欲」を重視することとなった。
[図41] 平成3年改訂前指導要録
※港区教育委員会事務局作成
また、学習指導要領の改訂で教科に加えられた「生活」の観点は「生活への関心・意欲・態度」「活動や体験についての思考・表現」「身近な環境や自分についての気付き」の3点とし、思考力の育成を重視した。
■平成12年 指導要録改訂
児童・生徒の学習達成度の評価の方法が、それまでの「集団に準拠した評価」(相対評価)から「目標に準拠した評価」(絶対評価)に変更された。
「目標に準拠した評価」は、平成10年(1998)改訂の学習指導要領が示す目標に照らした実施状況の評価であり、観点別評価と評定の双方を「目標に準拠した評価」で実施することとなった。目標に準拠した評価は、一般に「絶対評価」と称されていたが、教育の方向性を議論・決定する中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の方針により、平成22年以降、公文書では「絶対評価」という表現は使用していない。
「集団に準拠した評価」は、学級および学年での位置づけをもとにした評価で、一般に「相対評価」といわれる。昭和46年(1971)の文部省(当時)通知以降、平成12年通知までは、集団に準拠した評価を行いつつ、各段階の人数を固定化しないように求めており、絶対評価を加味した相対評価であった。平成12年以降は、「総合所見及び指導上参考となる諸事項」欄に、集団の中での相対的な位置づけを記載できるとしている[図42]。
[図42]平成12年改訂後指導要録
※港区教育委員会事務局作成
平成12年12月の教育課程審議会(平成13年1月付で中央教育審議会として設置)答申は、「集団に準拠した評価」から「目標に準拠した評価」に改めた理由を、次のように記述している。
・新しい学習指導要領に示された基礎的・基本的な内容の確実な習得を図る観点から、学習指導要領に示した内容を確実に習得したかどうかの評価を一層徹底するため[基礎・基本の確実な定着]
・児童一人一人の進歩の状況や教科の目標の実現状況を的確に把握し、学習指導の改善に生かすため[学習状況の把握と指導の改善]
・各学校段階において、児童生徒がその学校段階の目標を実現しているかどうかを評価することにより上級の学校段階との円滑な接続に資するため[円滑な接続]
・新しい学習指導要領では、習熟の段階に応じた指導など、個に応じた指導を一層重視しており、学習集団の編成も多様になることが考えられるため[個に応じた指導の充実]
・少子化により、学年、学級の児童生徒数が減少する中で、評価の客観性や信頼性を確保するため[評価の客観性と信頼性の確保]
※教育課程審議会答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の評価の在り方について」(平成12年12月4日)の一部を要約。
平成12年改訂では、「個人内評価」の一層の充実も求められた。「個人内評価」とは、観点別学習状況の評価や評定に示しきれない、児童・生徒一人ひとりのよい点や可能性、進歩の状況について積極的に評価しようとするもので、従来の「所見」を「総合所見及び指導上参考となる諸事項」に変更し、記述欄を大きくした。
新しい要録には「総合的な学習の時間の記録」も加わった。観点は「見つける力」「調べる力」「伝える力」の3点とした。
■平成22年 指導要録改訂
文部科学省は、学習評価の観点について、平成20年(2008)改訂の学習指導要領を踏まえ、「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」および「知識・理解」に整理し、適切な観点を設定することを求めた。
これを受けて改訂した新たな指導要録では、学習評価を改訂前の「観点別学習状況」「評定」「総合所見及び指導上参考となる諸事項」の3項構成から、「観点別学習状況」「総合所見及び指導上参考となる諸事項」の2項構成に改め、「評定」は「観点別学習状況」の1項目とすることとした。
学習評価では表現力を重視し、「観点」に加えた。社会では「社会的な思考・表現」を「社会的な思考・判断・表現」に、「観察・資料活用の技能」を「観察・資料活用の技能・表現」に改め、理科では「科学的な思考」を「科学的な思考・表現」に改めた。
また、新たな指導要録には「特別の教科 道徳」と「国際科の記録」を新たに加えた。道徳では「学習状況及び道徳性に係る成長の様子」を記述することとし、国際科の観点は「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」「コミュニケーション能力」「国際理解」の3点とした。
■平成30年 指導要録改訂
平成29年(2017)改訂の学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」を打ち出した。これを受け、文部科学省は指導要録の観点別学習状況の評価の観点を「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3点に整理し、適切な観点を設定することを求めた。
これに対応し、指導要録も大幅に改訂された。学習評価は「観点別学習状況」「評定」「総合所見及び指導上参考となる諸事項」の3項構成に戻し、観点は各教科共通の「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3点に改めた[図43]。
[図43] 平成30年改訂後指導要録
※港区教育委員会事務局作成
関連資料:【文書】小学校教育 平成3年改訂前の指導要録
関連資料:【文書】中学校教育 平成3年改訂前の指導要録
関連資料:【文書】小学校教育 平成12年改訂後の指導要録
関連資料:【文書】中学校教育 平成12年改訂後の指導要録
関連資料:【文書】小学校教育 平成30年改訂後の指導要録
関連資料:【文書】中学校教育 平成30年改訂後の指導要録