いじめ問題と解消への取り組み

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■いじめの態様と発生状況
 昭和45年(1970)ごろから、子どもの非行、校内暴力、自殺などが全国各地で続出するようになった。昭和50年代後半から60年代にかけては「いじめ」も加わり、大きな社会的問題となった。国は昭和60年から全国を対象に調査を始め、平成6年(1994)に「いじめ対策緊急会議」を開催するなど対策を講じてきた。
 平成28年3月、文部科学省初等中等教育局児童生徒課が平成26年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」における「いじめ」に関する調査結果を発表した。いじめの発生件数については、小学校、中学校、高等学校のいずれにおいても、昭和60年以降平成中期までは減少傾向あるいは横ばいが続いていたが、平成23年ごろから急増に転換している。

[図51] いじめの認知(発生)率の推移(1,000人当たりの認知件数)
出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」 平成30年度より作成

 

(注1)平成5年度までは公立小・中・高等学校を調査。平成6年度からは特殊教育諸学校、平成18年度からは国私立学校、中等教育学校を含める
(注2)平成6年度および平成18年度に調査方法などを改めている
(注3)平成17年度までは発生件数、平成18年度からは認知件数
(注4)平成25年度からは高等学校に通信制課程を含める
(注5)小学校には義務教育学校前期課程、中学校には義務教育学校後期課程および中等教育学校前期課程、高等学校には中等教育学校後期課程を含む


 
 文部科学省や各自治体の調査方法が変わっているため一概にいえることではないが、傾向として以下のようなことが読み取れる。
 着目すべきは、平成18年度調査である。ここで大きな変化が見られるが、これは文部科学省が平成18年度から調査する際のいじめの件数を「発生」ベースから「認知」ベースへ転換し、問題が大きくなる前の認知の段階から調査することになったためである。また、同年度から国・私立学校が調査対象に加わっている。
 また、この調査から、パソコンや携帯電話を使ったいじめの件数が急増していることもわかっている。内容としてはメール、掲示板、SNSなどである。
 港区のいじめ発生件数および認知件数を見てみると、小・中学校での発生件数は年度により差があり、その原因は不明である。ただし、平成18年度以降、一定数を超える年度が増えている。これは先述の「認知」ベースへと移行したためと思われる。
 

[図52] 港区小学校・中学校におけるいじめの件数
※港区教育委員会事務局作成

 

*平成12年度は不明
*平成17年度までの「発生件数」とは学校がいじめ発生と確認した件数、平成18年度以降の「認知件数」とは本人がいじめと感じ、学校がその状況を把握した件数。平成25年度以降はインターネットを通じて行われるものも含む


 「平成30年度港区におけるいじめ・不登校調査の結果」(令和元年11月12日教育委員会資料No.6)によると、いじめ発見のきっかけは、全国では「担任らによる発見」が多いが、港区では「保護者らからの訴え」が多い。また、区の傾向として、加害児童・生徒は他者との関わり方に課題がある者が多く、中には発達障害を有するケースも見られる。区では、いじめ防止の指導に加え、加害児童・生徒へのカウンセリングやソーシャルスキルトレーニングなどの継続を行っている。平成30年度のいじめの態様、傾向については、「悪口や嫌なことを言われる(からかい、ちょっかいを含む)」が最多となっている。

[図53] いじめの態様・傾向
※港区教育委員会事務局作成

 また、平成28年度の「港区保健福祉基礎調査報告書」では、「学校や友達のことで悩んだり、困ったりすることはありますか」という問いに対し、「いじめられたりすること」と答えた小学4~6年生は、平成22年で26・3パーセント、平成25年で26・1パーセント、平成28年で22・5パーセントであった。中学生では、平成22年で13・0パーセント、平成25年で5・4パーセント、平成28年で10・7パーセントとなっていた(この調査は、児童や生徒本人が回答しており、教員や学校による認知件数とは異なる)。
 
■いじめの防止・解消への取り組み
 区は、早い時点からいじめ対策に取り組んできた。例えば、平成17年度(2005年度)よりスクールカウンセラーを配置し、いじめなどに関する児童の相談に対応している。区独自の制度は、小・中学校へ毎週1日以上、幼稚園へは月2回スクールカウンセラーを派遣し、相談体制の充実を図るものである。併せて、心のケアが必要な児童のためにサポート会議などを開催し、スクールカウンセラーや養護教諭などと連携して問題対応に当たっている。
 また、児童・生徒に向けて、いじめについて相談できる機関の電話番号などが記された「相談カード」を、平成18年11月や平成21年4月に配布した。
 国は、平成25年6月に「いじめ防止対策推進法」を公布しており、この第12条では、いわゆる地方いじめ防止基本方針を定めるように努めよ、と記載している。翌年8月には東京都教育委員会も「東京都いじめ防止対策推進条例」および「東京都いじめ防止対策推進基本方針」に基づき、「東京都教育委員会いじめ総合対策」を策定した。
 港区では、平成26年10月に「港区いじめ防止基本方針」および「港区いじめ防止基本方針の具体的な取組」を策定している。
 区独自の動きを見てみると、平成25年にいじめ対応策を考える「港区いじめセーフティネットコミュニティ事業」を立ち上げている。これにより学校、保護者、地域、関係機関が協力体制を取り、連携していじめに関する状況を把握、社会全体で「いじめを絶対に許さない」意識を共有し、この問題の根絶を目指している。
 「港区いじめセーフティネットコミュニティ事業」と関連した庁内会議「港区子育て支援推進会議」にはいじめ防止専門部会があり、指導室や人権・男女平等参画担当課、障害者福祉課、子ども家庭課、子ども家庭支援センター、健康推進課、総合支所がそれぞれ取り組みを行っている。
 平成27年には、「港区いじめ問題対策連絡協議会等の設置に関する条例」が制定された。この条例に基づいて、四つの組織(教育委員会所管3組織、区長部局所管1組織)が設置され、いじめ防止に向けての取り組みなどについての意識共有、連携が図られるようになった。
 「港区いじめセーフティネットコミュニティ事業」は平成25年度以降取り組みが続けられているが、このうち、子ども家庭支援センターで行っている取り組みの一つが「みなと子ども相談ねっと」である。これは子どもたちが使用する携帯、パソコン、スマートフォンから専門家に相談ができる子ども専門の相談システムで、平成26年6月に開設された。
 子どもたち自身がいじめ防止に関わった事例の一つが、「ふれあいトーク」による「港子ども宣言」の作成である。
 「ふれあいトーク」とは、平成11年度より始まった、児童・生徒と教育委員が自由にディスカッションをする事業である。平成18年度には、第2回が教育センター内で開催され、区内の小・中学校29校から小学5年生~中学3年生の児童・生徒約60人が参加した。この話し合いをもとに、教育委員会では「みんな仲間だ! 互いの考えを認め合い、心と心をつなげよう!」とする「港子ども宣言」を作成した。
 もう一つ、子どものいじめ防止に関する事例として「港区子どもサミット」がある。港区子どもサミットは平成19年度からいくつかの分科会に分かれて行われていたが、平成24年度からはいじめに特化したテーマで実施している。毎年12月に、区立小・中学校代表の児童・生徒が一堂に会し、明るい学校づくりのために自分たちができることを考え、語り合う。討論だけでなく、朗読劇、分科会、シンポジウムとしても展開している。
 平成24年度の港区子どもサミットの結果、平成18年度に作成した「港子ども宣言」を引き継ぐ形で、「港いじめ防止子ども宣言」がつくられ、発表された。
 
関連資料:【文書】小学校教育 港いじめ防止子ども宣言
関連資料:【文書】小学校教育 港区いじめ防止基本方針(平成26年10月)
関連資料:【文書】小学校教育 港区いじめ防止基本方針の具体的な取組(平成26年10月)
関連資料:【文書】小学校教育 港区いじめ防止基本方針の具体的な取組(平成30年)