特別支援教育推進の準備(平成16~19年度)

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 国および東京都の特別支援教育の施策の展開を受け、港区では平成16年(2004)に「特別支援教育推進委員会」を設置し、港区における特別支援教育の基本的な考え方、推進のための課題解決、児童・生徒に対する環境整備および指導体制、特別支援教育の推進方策などの検討に当たった。この「特別支援教育推進委員会」のメンバーは、医師、心理学の専門家を含む学識経験者、保健福祉部障害者福祉課長、心身障害学級設置校校長、区立幼稚園園長、心身障害学級担任、教育委員会事務局次長、教育委員会事務局学務課長、教育委員会事務局指導室長、教育委員会事務局指導室統括指導主事らで構成されている。推進委員会は平成16年度から18年度までに各年度2回ずつ開かれ、区における特別支援教育の推進状況や施策の検討を行った。平成19年度にも7回にわたる検討・議論を重ね、最終的に「港区における特別支援教育のあり方」が作成された。
 
■特別支援教育コーディネーターの配置
 区の施策として、まずは平成16年度(2004年度)から、国の方針に沿って特別支援教育に関する「校内委員会」の設置、および「特別支援教育コーディネーター(特別支援教育担当者)」の配置が進められた。
 校内委員会とは、発達障害のある児童・生徒に対して、全校的な支援体制を整備するために設置される組織であり、校長、教頭、特別支援教育コーディネーター、教務主任、生徒指導主事、通級指導教室担当教員、特別支援学級教員、養護教諭、対象の幼児・児童・生徒の学級担任、学年主任、その他必要と思われるメンバーで構成される。区においては、平成16年度から新規の委員会として新たに設置されたものだけでなく、既存の校内組織に校内委員会の機能を持たせて拡大設置されたもの、既存のいくつかの校内組織が整理・統合されたものなど、各学校の実情を踏まえたさまざまな形で設置された。「校内委員会」は全教職員による会議を開いて行う学校もあるが、どの学校においても担任が児童・生徒の状況や支援方法について報告し、検討する形で行われている。平成19年11月時点において、区内の全区立小学校19校、中学校10校にはすべて設置されており、12校ある区立幼稚園の10校までに設置が完了していた。
 特別支援教育コーディネーターは、特別支援教育担当者とも呼ばれ、校内の特別支援教育を推進する中心的な存在として校務分掌に明確に位置づけられた。主な役割は、中心的な存在として保護者や関係機関に対する学校の窓口となり、学校内の関係者や福祉、医療などの関係機関との連絡調整をすることである。校長の指名により特別支援学級担任が担当することが多かったが、特別支援学級がない場合は、養護教諭や生活指導担当の教員が選ばれた。平成19年11月の時点で、区内の幼・小・中41校すべてにおいて指名が完了している。
 各学校の特別支援教育コーディネーターの専門性を高め、また養護学校(当時はまだ特別支援学校への移行期であり、養護学校の名称で呼ばれていた)との連携の強化および情報の共有を図るため、平成16年度には、教育委員会指導室主催で、新たに「特別支援教育研修会」が開催され、平成19年度には「特別支援教育担当者会」と名称を変えている。なお、これらには特別支援教育コーディネーターのみならず、幼・小・中の教員も参加している。
 「特別支援教育研修会」は、特別な支援を必要とする幼児・児童・生徒に対する理解を深め、適切な指導を行うために、具体的な演習や講演を通して教員として必要な資質・能力を高めるのがねらいであった。この研修を通して養護学校における取り組みが広く共有された。
 特別支援教育担当者会においては、各学校の体制づくりの情報共有と、都内の養護学校との連携強化を中心に行われた。都立養護学校の校長が講演を行った他、都立港養護学校、都立品川ろう学校、都立城南養護学校、都立光明(こうめい)養護学校から教員が参加するなど、小・中学校の特別支援担当者と養護学校の教員間で情報の共有が図られた。
 
■特別支援アドバイザーの派遣
 平成17年度(2005年度)からは、指導室の事業として、これら年4回ずつの特別支援教育研修会と特別支援教育担当者会の主催に加えて、「特別支援アドバイザー」の派遣が行われるようになる。特別支援教育アドバイザーは、発達障害に関する専門知識を持つ者から選ばれた3人が任命された。派遣は、それぞれが各校を学期に1~2回訪問し、特別支援教育担当者の相談に応える形で行われた。平成19年度には小・中学校だけでなく幼稚園への派遣も開始し、特別支援アドバイザーの人数は7人に増員された。
 平成18年度からは、それまで退職した校長が担うことが多かった「就学相談員」にも専門家が配置された。平成18年度は2人のうち1人を臨床心理士が、平成19年度からは2人とも臨床心理士が担当するようになり、相談内容に専門的に回答できる体制の整備が進められた。教育委員会事務局の係名も、平成20年度に「就学相談担当」から「特別支援相談担当」へと名称変更され、人員は5人に増員された。就学相談だけでなく、通級指導学級や学習支援員への対応も行うようになった。
 
■個別支援室の設置と学習支援員の派遣
 臨床心理士などの専門家だけでなく、NPOとの協働で進められた事業もあった。平成17年(2005)10月に開設された子ども家庭支援センター内に、区とNPOとの協働事業である「個別支援室」が設置された。この「個別支援室」は、①保護者・教員・当事者の相談、心理検査の実施・評価、個別指導計画などの相談、②人材育成と派遣、③支援器具や教材の開発、などが主な業務内容であった。
 その一環として、平成18年度には学習支援員(LSA=Learning Support Assistant)による支援も開始された。個別支援室で必要な研修を修了した者、あるいは同等の知識・技能を持った者が各学校に派遣され、児童・生徒の学習支援に当たった。平成18年5月には、28人の学習支援員が毎日交代で17人の児童・生徒への支援を行っていた。
 しかし、開始当初には問題もあった。学習支援員の導入は各学校の校長判断であったため、4例の支援においては保護者の了解を得ていなかったこと、また、一人の児童・生徒ばかりに介入しすぎてしまうNPOの支援員と、一人だけに支援を行えばいいわけではないとする学校との間に生じた軋轢(あつれき)など、さまざまな形で改善すべき点が見受けられた。
 最終的に平成18年度には派遣学校数15校に対し、派遣人数46人、平成19年度には派遣学校数16校に対し50人が派遣されている。ちなみに、平成30年度までの学習支援員の配置時間数は[図2]の通りである。
 

[図2] 学習支援員の配置時間数
出典:『港区の教育』各年度版より作成
*平成18~20年の配置時間数に関するデータは不明

 
 
■個別指導計画と個別の教育支援計画
 平成19年(2007)11月時点の調査では、区立幼稚園、小・中学校における個別指導計画の作成および個別の教育支援計画策定状況は[図3]の通り。
 

[図3] 個別指導計画の作成および個別の教育支援計画策定状況
出典:『港区における特別支援教育のあり方』平成20年より作成

関連資料:【図表および統計資料】学校教育 学習支援員の配置時間数