21世紀に入ると「インクルーシブ教育(inclusive education)」という考えが世界的に有力になっていった。平成18年(2006)に「障害者の権利に関する条約」が国連で採択され、日本は平成26年に同条約を批准した。その中でインクルーシブ教育について言及されている。この批准に関係する法整備が進められ、平成23年8月に「障害者基本法」が改正。平成28年には「障害者差別解消法」が施行され、「合理的配慮」が求められるようになった。
インクルーシブには「包括的な」「包容的な」との意味がある。障害者が健常者に包含され、同じ場で共に学ぶ教育制度がこれに結びつき、特別な支援を必要とする子どもたちへの教育の充実が図られるようになった。インクルーシブ教育とは、障害のある子どもを含むすべての子どもに対して、一人ひとりの教育的ニーズに合った適切な教育的支援を通常の学級において行う教育、と規定される。
こうした動向に即して、学校教育では平成24年7月に、中央教育審議会初等中等教育分科会にて「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」が取りまとめられる。中央教育審議会の報告を踏まえて、平成25年9月に学校教育法施行令の一部改正が行われ、「合理的配慮」の提供と学びの場の「基礎的環境整備」が示された(※2)。
港区教育委員会は平成15年度以降、基本方針の一つとして「魅力ある学校教育の推進」を掲げ、その中で、「障害のある幼児・児童・生徒が、その能力・特性等を最大限に伸ばし、成長・発達していけるよう、個々の教育ニーズに応じた指導体制・支援体制を構築するなど特別支援教育の充実を図る」としている(平成24年度以降)。その上で、特別支援教育の基本計画、就学相談、特別支援学級といった体制を構築した。
なお、『港区の教育』では、平成17年度版までは「心身障害教育」と記述され、平成18年度版以降は「心身障害教育」と「特別支援教育」が併用されている。「特別支援教育」のみの記述となったのは平成24年度版以降である。
施策の概要として、①障害のある児童・生徒のため、小・中学校に「特別支援学級」を設置し、障害の種類や程度、発達の状況等を踏まえ、多様な教育を実施する、②通常の学級に在籍し、特別な教育的支援を必要とする児童・生徒に対しては、その子の特性や能力などの可能性を伸ばす教育を推進する、としている。港区特別支援教育推進計画については、第7節第1項(1)111ページ(通史編⑨)を参照。
関連資料:【文書】教育行政 港区特別支援教育推進計画