小学生の頃、どのような服装で学校へ通ったか思い出してみてほしい。制服や標準服があっただろうか。私服であれば、どのようなものを選んでいただろう。学校だから派手なものは控えたか、それとも、友達に注目されるものを好んだだろうか。動きやすく丈夫で、汚れてもすぐに洗濯できるものだったのではないだろうか。
この章で取り上げるのは、小学校における服装の歴史である。
明治5年(1872)に公布された「学制」により、すべての子どもが基礎的な学校教育を受けられるよう、学区制に基づく小学校設置が構想され、港区域にも次々と公立小学校が創設された。次第に多くの子どもが通うようになる過程で、小学校における服装も変化してきた。それは、和服から洋服へという一般的な変容と重なるだけでなく、「小学校児童に適した衣服」として考案されたり、改良されたりすることで生じた服装変化でもあった。近代小学校がそのあり方を探りつつ確立するプロセスで、服装も、一要素として模索されたのである。そこに反映されたのは、当時の社会動向や新しい授業形態、教師や保護者の考え、児童の好みなどであった。
本章は、港区の小学校に残されている豊富な史料を手がかりに、明治から昭和初期の小学校における子どもの服装の変遷を跡づけ、身につけるものという観点から、学校や家庭、子どものありようをとらえていきたい。