裁縫科の授業は、女子教育において重要な位置づけにあった。その内容は、「小学校に於て義務教育を卒(お)ふる迄には、通常衣服の縫ひ方及び裁方に習熟せしめ、兼ねて節約利用の良習慣の基礎を養ふ」(麻布小学校『あざぶ小学』第2号)とされ、実用的な技術の習得が目指された。洋装化に伴い、洋裁教育の必要性も説かれ、縫製が簡易な子どものエプロンやシャツが教材となった。また、裁縫技術は保護者にも求められた。それは、母親の愛情深い手作り服こそ子どもに望ましいとする、母性愛を動員した啓蒙(けいもう)であった。
お子様方の着物にしても洋服にしても本職に任せるよりは、出来具合は兎(と)に角、母親のお方のお手づからお仕立て下さる事は、子供にとつてどれ程よい感じを与へるかわかりません。私はこの点より考へて母は子に、姉は妹にその真心こめての製作は実に情操上深い意味を含む事と思ひます。
(神応小学校 1924 『学校家庭通信』第3号)
裁縫室に導入されたミシンを用いて、母親のミシン講習会も開かれた[図4―13]。こうした働きかけが家庭の洋装化にも影響を与えたと考えられる。
[図4-12] 裁縫授業を受ける女子児童
出典:麻布小学校『卒業記念写真帖』昭和2年
[図4-13] 裁縫室でミシンを習う母親たち
青南小学校所蔵、大正11年
関連資料:【通史編3巻】2章1節2項 裁縫科の設置