子ども時代を過ごした学校での生活はどのようなものだっただろうか。目に浮かぶ風景は、教室での授業風景、入学式や卒業式を行った体育館、運動会で万国旗がはためく校庭、屋上から眺める空の開放感などではないだろうか。このように考えると、子どもの学校生活は、学校建築という物的環境と切っても切り離せない密接な関係にあることがわかる。
本章では、学校建築(設備を含む)の変遷から、子どもの生活・教育環境として学校がどのように機能してきたのかを描いていきたい。明治・大正・昭和・平成そして令和と、時代の変遷とともに学校教育に求められるものは変化してきた。教育の内容や方法が変われば、それを効果的に行うための校舎や設備もまた、時代によって多様な形を示す。翻って考えるならば、学校建築の変遷を追うことは、学校教育のあり方の変化をたどることにつながり、さらにはそこでの子どもの生活も浮かび上がってくるだろう。
学校建築の変化を見る上で特に重要な画期がある。それは、関東大震災とアジア・太平洋戦争である。港区を襲った二度の災厄は、子どもの学校生活とそれを支える学校建築に大きな試練を与えた。本章の後半ではこの二つの時期に着目して、学校建築とその環境を掘り下げて見ていきたい。