はじめに

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人の一生の中で、子ども時代(「子ども期」という)は、どのように過ごすべき時期だろうか。大人への準備期間と考えて、大人になったときに必要な知識や技術を身につけるべきか。あるいは、一生に一度しかない子ども期をのびのびと過ごすべきか。準備期間であれば、無駄に過ごすことは許されないし、のびのび過ごすのであれば、子どものしたいことをできるだけ尊重しなければならない。子ども期に対する大人の考え方によって、教育は大きく左右される。
本章は、大正新教育と呼ばれる教育改造の動きに注目する。大正新教育では、明治期の学校教育が、画一的で自由さがなく、子どもに一方的に知識を教える教育として批判された。そして教育は、子ども期を尊重する、新しい理念と方法で実践されていく。この動きは、「大正デモクラシー」と呼ばれる時代性の中で展開しただけでなく、世界的な教育改造の動きとも連動していた。港区域の小学校は、この新教育の動きにどのように取り組んだのだろうか。以下、第1節では「新教育」について理解するために、それ以前の学校教育の特徴について振り返る。続いて第2節では、新教育がどのような理念に基づく動きだったのかを確認する。その上で第3節では、港区域の小学校の様子を具体的に見ていく。特に、新教育の理念を積極的に取り入れて教育方針を大きく変化させた白金小学校の様子を描く。