やや時代が下った大正7年、白金小学校は保護者向けに、学校の教育方針を示す二つの冊子を発行した。一つが教授の方針を示した『東京市白金小学校の実際』、もう一つが訓育、すなわち道徳面の教育方針を示した『訓練号 学校ト家庭ノ聯絡(レンラク)』である。
『東京市白金小学校の実際』には、新教育の考え方が伝わりつつあることをうかがわせる文章がある。
教育手段中最も大切なるものは、教授であつてある意味に於(お)ける教育の生命とも云(い)ふべきものであるから、勿論(もちろん)学校に於ては全力を傾注して、児童に当ると云つてよろしい位である。
近来教授法の新主張として自学主義、勤労主義等の唱導を見るも、要するに児童の程度に応じ適切なる教授を施し、かくして収得せる智識を応用自在ならしむる趣味の実現を、本校教授の方針としたのである。
校長によると思われるこの文章は、新教育の考え方を受け入れるというより、児童の理解度に応じて教授方法を変えればそれで事足りるのだ、と述べている。そして、児童は教師の教授によって知識を習得する対象とみなされている。
『訓練号 学校ト家庭ノ聯絡』は、各教員の訓育面に対する考え方で構成されている。文章のタイトルは「規律を守る習慣」「従順は訓育の基礎」「規律質素の養成に就て」「規律清潔礼儀の実行に就て」などで、子どもを規律によって従順に育てようとする意図が見える。
このように、当時の白金小学校は、「自学主義、勤労主義」など新教育の存在を横目に見ながらも、従来と同じような教育方針を採用していた。つまり、新教育的な教育方法に積極的ではなく、むしろ一定の距離を取っていた。