中学校の教育実践

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中学校では、新学制による新設校にふさわしいさまざまな実践が、各学校の創意で行われていた。朝日中学校では生徒会を「朝日市」という自治体に見立てた実践を行った。生徒の「総選挙」で学校全体の市長・副市長を選挙し、各学級を「区」に見立てて区長・助役を選出した。当時の校長は実践の意味を次のように述べている。
 学校も一つの社会である。社会というものは、個人の必要に応ずるために大切な組織であり、社会を健全なものに築いて行くために各自が協力し合って、共通の問題をとり上げて解決していくことが政治であることを、学校内で生徒自身に経験させ、自分達の身近かな問題をとり上げて、それを解決する努力をさせた。(『あゆみ 創立三十周年記念誌』)
北芝中学校も昭和25年に「新憲法の精神は私たちの日常生活の中に生かされなければならない。その政治機構は単に静的に理解されるだけでなく、できれば学校生活の中で組織的に実習したい」という趣旨で生徒会を改組した。三権分立を目指し、各学級から男女同数の議員が選出される議員会(立法機関)、3年生の候補者から選出される学校委員会(行政機関)が組織された。ただし「司法権を全面的に生徒に任せることは弊害もある」ため教師に委ねられる組織となった(『若鮎』第4号)。中学校が生徒会活動の中でも、戦後の教育理念を実現しようとしていたことがわかる。
愛宕中学校は、昭和24年からホームルーム制と週5日制という特徴的な実践を開始した。ホームルームには縦割りと横割りがあり、縦割りホームは1年生から3年生の学年を超えた生徒で編成されていた。生徒は登校後、縦割りのホームへ入ってホーム担任からの連絡事項を聞く。その後、教科の担当教員がいる教室を移動しながら授業を受けた。ホーム独自の活動もあり、例えば音楽担当教員のホームではホーム歌が作られ、他ににわとりやうさぎの飼育をしたホームもあった。
ホームルーム制開始当初、校長は「人生計画にとつて、よき友、よきグループの如何(いか)に大切なことか。そこで先(ま)ず皆さんは、よき友、よきグループを選ぶべきです。(中略)皆さんの学校生活が、こうした明るい開いたグループによつて構成されるところに、本当の学校生活の民主化があるのです」と述べていた(『若葉』第2号)。12歳から15歳の男女が在籍する中学校で、学年・年齢や性別を超えた交流がなされることの意味が重視された。
また週5日制は、月曜日から金曜日を授業日とし、土曜日を研究日と名づけて自主学習の時間に充てる制度だった。中学校にも経験主義の学習方法が広まり、生徒は土曜日に、図書館や家庭で学習課題に取り組んだ。当時の生徒会誌には「俳句鑑賞」「雷について」「ナトリユウム(ママ)の実験」など、生徒が行った研究の結果が掲載されている。しかし、土曜日に授業を行わない分、平日は1日8時間に上る授業が行われていた。
PTA役員を務める保護者からは、土曜日が研究日になったことを、自主的な姿勢を重視する新教育にふさわしいと評価する声も挙がった。生徒からは8時間の学習が非常に疲れるので6~7時間にしてほしい、教室間の移動がわかりにくく面倒、平日に8時間の授業をするならば、土曜日は休日にしてほしいなどの率直な声が挙がっている。卒業を控えた3年生は、ホームルームや週5日制について、学校生活に「なじむに従つて興味がへつて来た。その日その日の生活が単調になり、生活がつまらなくなつて来た」という感想を残している(『若葉』第3号)。二つの特徴的な実践は3年で廃止された。
北芝中学校では昭和24年、最初に在籍した3年生を「実業組」クラスと「進学組」クラスに編成した。実業組は「新制中学三年を卒業したら社会に出て働らく(ママ)ための勉強をする組」、進学組は「全部高等学校への進学希望者ばかり」で構成された組だった(『若鮎』第3号)。実業組では6時間の授業を終えた後、工業や簿記など就職に必要な勉強をすることになった。
翌年、「民主的な社会人を育てようとしている新制中学に今、往年の受験旋風が復活しようとしている」として、教師と事務職員が「受験勉強の実態」と題する調査を行った(『若鮎』第4号)。その結果、高校進学のための学力検査の15日前の時点で、過半数の生徒が「非常に無理」「やや無理」な勉強をしていること、1割が「わかもと」などの薬を服用し、2パーセントがビタミン注射をしていること、5割近くが睡眠不足や試験に対する不安を抱えていることがわかったという。調査は他方で、ほとんど全員が受験勉強に賛成している、ある程度の喜びを持って進んでいると結論づけている。戦前、小学校卒業時点の12歳で迫られた進学・就職への対応は、中学校卒業の15歳の時点に移動し、新設間もない時期から中学校の実践に大きな影響を与えていた。


[図11-6] 「朝日市報」と題された校報

出典:朝日中学校『あゆみ 創立三十周年記念誌』昭和53年10月

関連資料:【通史編6巻】5章3節3項 基本的な考え方
関連資料:【通史編6巻】5章3節3項 生徒会
関連資料:【文書】北芝中学校生徒会組織
関連資料:【文書】愛宕中学校特別教育活動と5日制