はじめに

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山原 何でも一日も早く実行してもらいたいと云う事だけです。
司会 では、一体誰にやって欲しいと言うんですか。
山原 先生方、PTA、または生徒会です。
司会 じゃあ、君はそれを早く実行して欲しいと言った事があるか?
山原 でもいくら言いたくても、この朝日中では市民の声しか不満を訴えるものがないんです。
(「座談会 よりよい生徒会とは」朝日中学校『朝日』第3号、昭和42年3月、p. 15)
司会役の教員と生徒の応酬には、緊張感が漂っている。21世紀の中学校では、このように公式の場で教師と生徒が本気で意見をぶつけ合うことは、想像しにくいかもしれない。しかし実は、戦後30年余りの間、港区の中学校ではしばしば座談会を開き、生徒同士、あるいは教師と生徒が熱く語り合い、また真剣に意見を戦わせていたのである。それらの記録は、各中学校で発行された校誌に掲載された。
当時の中学生は、座談会の場で何をテーマとして取り上げ、どんな発言をしたのか。そして、生徒同士、教師と生徒が座談会で語り合ったことは、どのような意味を持っていたのか。本章は、座談会記録から当時の中学生にとっての学びや彼ら彼女らが持っていた意識、教師―生徒関係などを明らかにすることを試みる。第1節では港区立中学校で発行された校誌、および校誌に掲載された座談会記録について紹介する。第2節以下では、おおよそ10年ずつに時期を分け、各時期における座談会の形式や内容から、傾向を分析していく。