それでも、学校教育がオリンピックから引き出した最大の教訓は、健康と「根性」という、心身を鍛錬することの重要性だったといえる。前者については、文部省がオリンピック開催を契機に体力テストを開始したことが有名だが、他にも、例えば赤坂中学校では、1964大会開催を機に「健康優良生徒表彰」を制定し、選ばれた生徒男女1人ずつを9月13日の運動会時に表彰した(40)。後者についても、日本女子バレーボールが優勝したことで「生徒に東洋の魔女たちは日本国民に、生徒にも、教師にも、父兄にも、日本人全体に自信を与えた。『やればできる』という自信を」という意識が教師、生徒、保護者の間で高まった。昭和39年度に道徳の区研究指定校となった港中学校は『根性―生活指導の実践―』[図13―7]にまとめ、「根性」の指導を顕著に打ち出した。もちろんオリンピックも当年度限定ながら指導計画に盛り込まれた(41)。もっとも「根性」論はオリンピックが起源ではない。また「根性」論は必ずしも非人間的な鍛錬ではなく、高度経済成長下における人間疎外の社会状況で、「根性」を通した人間性の回復が教育界で願われていたという指摘もある(42)が、時代状況の中でオリンピックが時宜にかなった教材となったのは確かだろう。
[図13-7] オリンピックを指標とする学活・道徳の指導計画
この計画では、7月から10月までをオリンピック特別指導月間として、全校体制で指導しようとしている。
出典:港中学校『根性 生活指導の実践』昭和39年12月