(1)計画策定の目的
スポーツは、健康・体力の維持増進、ストレスの解消に対する効用、地域コミュニティの活性化、青少年の健全育成等への効果など、人々の生活や地域を豊かにするものです。
このような健康・体力の維持増進といった効用やスポーツのもつ可能性は非常に重要なものですが、これまでスポーツの推進の重要性は、その効用面から語られることが多かったといえます。
しかし、スポーツは、音楽や美術、文学などと同様、人間が創りだし、享受してきた文化であり、それ自体の中に喜びや楽しさを求めて行われるものです。
このようなスポーツの新たな価値や意義、果たす役割の重要性の高まりから、国は、昭和36年に制定した「スポーツ振興法」を、平成23年8月に50年ぶりに全面改正し、「スポーツ基本法」を施行しました。基本法では、「スポーツは、世界共通の人類の文化である」との言葉から始まり、前文において、「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利であり、全ての国民がその自発性の下に、各々の関心、適性等に応じて、安全かつ公正な環境の下で日常的にスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならない」という、スポーツを行う権利を保障する考え方が記されています。
港区では、これまで、港区基本計画に基づき、「はぐくむまち」の分野の「生涯を通じた心ゆたかで健康な都心居住を支援する」を基本政策として、「身近にスポーツを楽しめる場の確保」「スポーツ活動への参加支援」を柱としたスポーツ振興の取組を実施してきました。
今後は、国等の方針を踏まえながら、スポーツの文化としての本質的な価値を共通認識として、中・長期的な展望にたったスポーツの推進を図るためには、スポーツ推進の基本的な考え方や理念を共有するためのビジョンが必要となります。
また、様々な価値や意義のあるスポーツの振興は、行政施策の多様な分野に関わっているため、施策相互の連携を図り、戦略的に推進していくためには、基本方針を明確に定め、個々の取組を体系づけていくことが必要です。
このようなことから、港区のスポーツの推進に関する多様な施策を総合的に体系化し、港区の今後のスポーツ施策の基本的な方向性を定めた初の計画として、「港区スポーツ推進計画」を策定することとなりました。
本計画の策定に先立ち、区民のスポーツに関する意識や、スポーツ施設等の環境を調査するため、「スポーツ振興に関するアンケート調査」(平成22年度)を実施しました。
調査により把握した現状及び課題、区民のニーズ等を踏まえ、区民の誰もが、身近な場所で、生涯を通じて、スポーツに親しみ、楽しむことのできる地域づくりをめざした「港区スポーツ推進計画」を策定します。
[本計画策定の目的]
●スポーツ基本法の趣旨に基づき、すべての区民がスポーツの文化としての本質的な価値を共有し、スポーツを楽しむ機会が確保されるための方針と施策を、明確に定めます。
●スポーツ振興に関わる多様な施策を、中・長期的な展望から戦略的に推進するため、諸施策を総合的に体系化します。
(2)計画策定の背景
①社会的背景
今日の社会では、少子高齢化が急速に進む中、人々のライフスタイルや価値観の変化が様々な形で生じています。
団塊の世代の定年退職が進み、仕事や子育てを終えて、第二の人生を楽しむ人が増えています。アクティブシニアなどと呼ばれるこれらの人々は、余暇を楽しみ、積極的に社会に参画しています。このような中で、健康志向の高まり、シニア層のいきがいづくりや仲間づくりなどの観点から、運動やスポーツの役割がその重要性を増しています。
一方、働く世代の人々のライフスタイルも大きく変化しています。日常的に身体を動かす機会が減少し、体力低下や精神的ストレスの増大、中高年の生活習慣病の増加など、心身両面にわたる健康問題が顕在化しています。
また、核家族化の増加、職場や地域などでの交流の場の減少から、人間関係の希薄化も深刻な社会問題となっています。
子どもたちについても、外遊びの機会の減少、コミュニケーションの機会の減少、生活習慣の乱れ等の問題が指摘されています。文部科学省が行っている「体力・運動能力調査」によれば、長期的に低下傾向が続いていた子どもの体力・運動能力は近年ゆるやかに改善しつつありますが、同時に運動やスポーツをする子としない子の体力格差の拡大が報告されています。
このような社会背景の中で、すべての区民が生涯にわたって健康で活力ある生活を送り、地域社会の一体感や活力を醸成していくことをめざした、運動やスポーツの推進、環境づくりが求められています。
②国・都の動き
国では、平成22年8月に、今後10年間(~平成31年度)のスポーツ政策の基本的方向性を示す「スポーツ立国戦略」を策定し、平成23年8月には、本戦略を踏まえ、昭和36年制定の「スポーツ振興法」を全面改正し、スポーツに関する基本理念を明示するとともに、国及び地方公共団体の責務並びにスポーツ団体の努力等を定める「スポーツ基本法」が施行されました。また、この「スポーツ基本法」※(P9参照)の規定に基づき、平成24年3月には、新たな「スポーツ基本計画」が策定されました。
東京都では、平成20年に、平成25年開催の第68回国民体育大会(東京国体)や、将来のオリンピック・パラリンピック競技大会を視野に入れた「東京都スポーツ振興基本計画」を策定し、平成28年度までを計画期間として、「スポーツ・フォア・オール※」を基本理念としたスポーツ施策の推進に取り組んでいます。
また、平成24年3月には、障害者スポーツの振興を見据えた「東京都障害者スポーツ振興計画」が策定されました。
東京都スポーツ振興基本計画(概要)
基本理念:スポーツ・フォア・オール
だれもが生涯を通じてスポーツに親しむことにより、健康的で豊かな人生を楽しむことができる社会の実現を目指す。
数値目標:スポーツ人口のすそ野を広げ、都民のスポーツ実施率を60%以上とする。
3つの戦略と主な取組
①スポーツを始めたくなる、もっと親しめる東京を実現(都民のスポーツ実施率を高める取組)
例)運動部活動の充実、職場でできるストレッチ体操の開発、ユニバーサルデザインの施設改修、地域スポーツクラブの設立支援、観戦スポーツの振興など
②世界を目指す東京アスリートの育成(東京アスリートの活躍を支援する取組)
例)ジュニア選手の発掘・育成・強化、NTC及びJISSとの連携、指導者の確保・育成、情報・医・科学サポートによる支援、障害者アスリートの競技力向上など
③スポーツ都市東京の実現に向けた、仕組みづくりと環境整備(戦略①②を支える取組)
例)東京版スポーツコミッションの設立検討、国際的スポーツ大会等の積極的誘致、東京アスリートを称える顕彰制度の充実、都立大規模施設の改築・改修など
(3)計画の位置づけ
本計画は、港区基本計画の個別計画である港区教育振興プランの下位計画として、区民の誰もが、生涯を通じて、スポーツに親しみ、楽しむことができる環境を整えるために策定されるものであり、区のスポーツ施策を計画的、総合的に推進するものです。
図表1 計画の位置づけ
●本計画における「スポーツ」とは
本計画は、スポーツを、より幅広い概念で捉えており、ルールに基づいて競うスポーツだけではなく、健康づくりのための体操や気分転換に行う散歩、自然に親しむハイキング、介護予防のためのトレーニングなどの意識的に行う身体活動の全てをスポーツと捉えています。
(4)計画の期間
本計画は、港区基本計画の進捗に合わせ、平成24年度(2012年度)から平成29年度(2017年度)までの6年間とします。
計画の中間年にあたる平成26年度には、計画の進捗状況を把握し、社会情勢等にあわせ、必要に応じて、見直しを行います。