我が国のスポーツ振興は、長年、昭和36年に制定された「スポーツ振興法」を基盤としてきました。しかし、制定から50年が経過し、スポーツを行う目的の多様化、地域におけるスポーツの重要性の高まり、プロスポーツの発展、スポーツによる国際交流や貢献の活発化など、スポーツを巡る状況は大きく変化しつつあります。
こうした状況を踏まえ、スポーツの推進のための基本的な法律として、平成23年6月に「スポーツ基本法」が公布、8月に施行されました。
この法律では、すべての人にスポーツを楽しむ権利を認めており、スポーツの推進は国の責務であると明記されています。また、トップ選手の国際競技力向上と、地域スポーツの推進を二本柱に掲げていることや、障害者スポーツの支援、地域スポーツクラブの支援などが重要な施策の柱として盛り込まれたことが特徴として挙げられます。
今後は、スポーツ立国の実現をめざして、国家戦略として、スポーツに関する施策を総合的、計画的に推進していくことが期待されています。
スポーツ基本法が50年ぶりに全面改正!
スポーツ基本法の概要 平成23年8月施行
1 前文 「スポーツは、世界共通の人類の文化である」
スポーツ基本法の前文は、この言葉から始まり、スポーツの価値や意義、スポーツの果たす役割の重要性が示されています。
●スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利
●スポーツの価値や意義(青少年の体力向上、人格の形成、地域社会の再生、長寿社会の実現、夢と感動等)
2 総則
スポーツに関する基本理念、国・地方公共団体・スポーツ団体の責務・努力等を定めています。
<基本理念>
①国民が生涯にわたりあらゆる機会と場所において、自主的・自律的に適正や健康状態に応じてスポーツを行うことができるようにする
②学校、スポーツ団体、家庭及び地域における活動を相互に連携
③地域において、主体的に協働することによりスポーツを身近に親しむことができるようにするとともに、スポーツを通じて、地域の全ての世代の人々の交流を促進し、交流の基盤を形成
④スポーツを行う者の心身の健康の保持増進、安全の確保
⑤障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、障害の種類及び程度に応じ必要な配慮をしつつ推進
⑥スポーツに関する競技水準の向上に資する諸施策相互の有機的な連携を図りつつ、効果的に推進
⑦スポーツに係る国際的な交流及び貢献を推進、国際相互理解の増進及び国際平和に寄与
⑧スポーツを行う者に対する不当な差別的取扱いの禁止、スポーツに関するあらゆる活動を公正かつ適切に実施することを旨として、スポーツに対する国民の幅広い理解及び支援が得られるよう推進
3 スポーツ基本計画等
国の「スポーツ基本計画」、地方自治体の「地方スポーツ推進計画」について定めています。
4 基本的施策
5 スポーツの推進に関わる体制の整備
国、地方自治体のスポーツ推進会議、スポーツ推進委員等について定めています。
(2)スポーツの意義
スポーツには、「する」、「みる」、「支える」といった多様な関わり方があり、区民が生涯にわたってスポーツに親しむことは、区民の健康やいきがいづくり、活力あるまちづくりにおいても大きな意義をもちます。
◆スポーツは誰もが楽しめる世界共通の人類の文化です。
スポーツは、人の根源的な欲求を充足させるものであり、子どもから大人まで、障害のある人もない人も、言葉や生活習慣の違いを超えて、誰もが楽しめるものです。ともすると、スポーツは健康や体力の維持増進といった生存に必要な面から語られがちです。しかし、歌を歌う、絵を描く、文学作品を読むということ自体が喜びや楽しさをもたらすように、スポーツも、自らの身体を動かして行うこと自体に喜びや楽しさがある活動です。
また、それぞれの国に「固有のスポーツ(国技と呼ばれるものもある)」があるように、スポーツは、地域によって異なる文化である一方で、多くのスポーツに国際大会があるように、ルールという共通の認識のもと、様々な人がともに楽しみ、競うことができる、人間らしい、高度な文化であるといえます。
◆子どもたちは、スポーツを通じて、心身ともに健やかに育ちます。
現在の子どもの体力・運動能力は、近年回復傾向が報告されていますが、子どもの体力のピークとされる昭和60年頃と比較すると顕著に低い水準となっています。また、靴のひもが結べない、スキップができないなどといった、自分の身体を操作する基本的な能力が低下している子どもたちが増えているなどといった現象も憂慮すべき問題です。
スキップができない!?
子どもの頃からスポーツに親しむことは、身体能力を発達させるとともに、スポーツを通じて、勝ち負けの厳しさを知り、克己心やコミュニケーション能力、リーダシップを身につけるなど、精神面でも様々な成長をもたらします。また、幼少期において、スポーツを楽しむ機会に恵まれた子どもは、その後、青少年期、壮年期、高齢期になっても、何らかの形でスポーツを続ける傾向が高いことも報告されています。
◆生涯を通じたスポーツは健康な生活をつくり、いきがいをもたらします。
現代は、デスクワークなどが増え、運動不足の傾向が蔓延している一方で、ランニングブームなど、健康づくりのためにスポーツに取り組む人が増えつつあります。
青年期、壮年期の運動不足による生活習慣病の増加への対策、高齢者の介護予防など、健康増進面からもスポーツは重要です。
また、生涯を通じてスポーツを楽しむことは、健康増進面だけではなく、いきがいづくり、ストレス解消など、精神的な充足にも効果をもたらします。
◆地域スポーツは、仲間をつくり、地域コミュニティを創出します。
「無縁社会」がクローズアップされる現在の社会の中で、スポーツのもたらす仲間づくりの機会や、人との関わりを生み出すことへの意義が高まっています。
かつては、終身雇用制度に基づいて、職縁が育まれ、職場仲間とのスポーツなどを楽しむ人も多くいましたが、現在では、そういった職縁が衰退しつつある中、縁を育む一つの手段として地域スポーツが注目されています。
地域スポーツを通じて、地域に仲間をつくり、縁を育むことは、地域コミュニティの創出、活性化にもつながります。
◆スポーツは感動をもたらし、地域に活力を生み出します。
スポーツは、人を元気づけ、人の心に感動をもたらし、地域に活力を生み出す力があります。現在、高度経済成長以降、これまでスポーツ界を支えてきた企業が景気低迷の影響から手を引きつつある一方で、地域と密着したホームタウンスポーツが注目されるようになってきました。地域の住民が「サポーター」となり、地元チームを応援することは、多くの人々を元気づけ、地域のつながりや活力を生み出すことにつながっています。
また、オリンピックやワールドカップでの日本人選手の活躍に見られるように、緊迫した競技において、ひたむきに頑張る姿や人間の可能性の極限を追求する姿は、多くの人に夢や感動、希望を与えます。
(3)東日本大震災とスポーツ
東日本大震災は我が国に甚大な被害をもたらしました。その影響は、人的、物的などの直接的なものから、経済や産業など間接的なものまで多岐に渡り、港区も、少なからず影響を受けています。前述したように、スポーツには、心身の健康、地域の絆づくりなど、様々な意義、効果がありますが、特に、東日本大震災の後においては、スポーツが復興のシンボルとして扱われ、また、被災者の心を癒し、鼓舞する力を持つものとして、あらためて着目されました。
震災復興のシンボル! 市民とともに歩むスポーツ
○地元の誇りのラグビーチーム
「鉄と魚とラグビー」のまちといわれる岩手県釜石市では、震災後、かつて活躍したOB選手たちを中心に、復興支援活動団体「スクラム釜石」が立ち上げられ、募金活動、チャリティーマッチ、ラグビー教室、さらにはサポーター拡大の呼びかけなど、復興活動を支援しました。「スクラム釜石」による、市民とともに震災から立ちあがろうとする活動は、市民を勇気づけ、復興活動の輪を拡大しています。
○甲子園の選手宣誓にて
震災直後の3月23日から阪神甲子園球場で開催された第84回選抜高等学校野球大会の選手宣誓は「私たちに今できること。それはこの大会を精いっぱい元気を出して戦うことです。がんばろう!日本。生かされている命に感謝し、全身全霊で正々堂々とプレーすることを誓います。」という言葉で締めくくられ、全国に感動を与えました。
○人々の心を大いに鼓舞した「なでしこジャパン」
サッカー女子ワールドカップ(W杯)に出場した日本女子代表「なでしこジャパン」のひたむきに頑張る姿は、全国的に注目を集めました。決勝では、PK戦の末に米国を下し、初優勝。東日本大震災で被害を受けた人々の心を大いに鼓舞しました。