東京都港区教育委員会
委員長 吉 田 健 一 殿
東京都港区立学校適正規模等審議会
会 長 高 倉 翔
港区立学校の適正規模、適正配置及び通学区域についての基本的考え方並びに具体的方策について
(答申)
昭和六十二年十月六日に諮問のあった標記の事項について、別紙のとおり答申いたします。
Ⅰ はじめに〔略〕
Ⅱ 港区の現状と動向〔略〕
Ⅲ 望ましい学校規模と通学圏・地域性を配慮した学校配置
1 学級・学校規模について〔略〕
2 望ましい学級・学校規模
本審議会は、幼稚園・小学校・中学校それぞれの望ましい学級・学校規模について、港区の実情に即して次のとおりまとめた。
なお、小学校・中学校の規模を考える算定根拠としては、現行法規上の四十人学級とは別に学級定員の将来動向を勘案し一学級の基本を三十五人程度として考えることとした。
(1)幼稚園
一人っ子や男女一人ずつの兄弟が多い等の少子化の傾向が進行している。
区立幼稚園は、四・五歳児を対象とし個々の幼児の個性の伸長と発達段階に合わせたきめ細かな指導を図る中で、社会性を培い集団教育効果などを通して個々の幼児の可能性を育み、社会的ルールを習得させる等の教育を行っている。
そのためには各年齢毎に複数の学級を持ち、学級当たり二十人程度の幼児が安定して確保できる規模の園が望ましい。
●望ましい規模
全学級数…各年齢毎に複数学級以上
学級規模…四・五歳児ともに学級当たり二十人程度
(2)小学校
小学校教育は、人間相互の関係についての正しい理解及び自主・自立の精神の育成とともに教科学習についての基礎的・基本的事項の修得と、心身の調和的発達を図る役割を担っている。
このことを踏まえ、一校当たりの標準学級数を国は十二~十八学級とし、統合などの場合は二十四学級までとしている。
港区の現状を図-五で見ると平成元年度二十六校中で十八学級を超える学校は三校のみでその中で二十四学級を超える学校は一校のみである。
また、十一学級以下の学校は十三校で全小学校の半数を占める状況にある。
これらの状況を勘案し、学級間の相互刺激、学級の編成替えによる新しい友人関係の醸成や教師との出会いなどの教育的効果と校内の指導組織の充実等の観点から少なくとも各学年複数の学級を確保することが望ましい。
●望ましい規模……十二~十八学級
(3)中学校
中学校教育は、小学校における教育の基礎の上に心身の発達に応じて、社会の形成者としての必要な資質を養うとともに、学校内外における社会的活動を促進し、公正な判断力の育成を図る役割を担っている。
このことを踏まえて国は一校当たりの学級数を中学校についても小学校の規模に準じて十二~十八学級を標準としている。
港区の現状を図-六で見ると十八学級以上の学校はなく、それに反して十一学級以下の学校は、十一校中九校という状況であり、その内訳は、九~十一学級の学校が五校、七~八学級の学校が二校で、全学年二学級ずつの六学級の学校も二校ある。
このような状況を考えるとき中学校区は小学校区と比して、ある程度の広域を想定することは可能であるとしても全校を望ましい学校規模とすることは現実的ではない。
しかし、中学校は全て教科担任制により指導されているため、小規模校においては全教科に専任教員を配置することが出来なくなり、そのため非常勤講師で対応することとなる。このことにより、授業時間外の生徒指導が困難となり、学校経営・運営に種々の問題を生じている。
また、中学生は、外部からの価値観を自己に合わせて再構築して自己確立を図っていく時期であり、個々の生徒の好ましい人間関係と個性・能力の仲長の場であるクラブ(部)活動の存在は欠かせない。
しかし、学校規模の縮小にともない、クラブ(部)活動に対する専門的指導や、維持をするための教員の数的な不足、参加生徒の年毎によるばらつき等により安定した運営が困難となる等の問題もある。
これらのことを総合的に勘案すれば少なくとも学年当たり三学級以上の確保が望ましい。
●望ましい規模……九~十八学級
3 港区としての小規模校
これまで、都市化の進展が著しい中で、「港区としての望ましい学校規模について」の考え方を述べてきた。
しかし、既に述べてきたように、港区における業務立地化は更に進行し幼児・児童・生徒の学齢人口は今後も減少が続き、かつその地域的偏在が顕著になると予測され、区立学校の小規模化はなお進行することが予想される。
そこで、「港区としての望ましい学級・学校規模」を、あくまで基本として条件整備のための具体的対応がなされるべきであるが、それと併せて本審議会は本区の地域特性を踏まえ、教育効果を維持していくための諸条件を勘案し、存置の一定基準として「港区としての小規模校」を次のとおり学校の種類別に設定することとした。
これらの学校においては教科指導方法、学級運営あるいは校内指導体制など学校運営全般にわたり、様々な創意工夫と努力がなされる必要がある。
(1)幼稚園
幼稚園においては、家庭での生活を基盤としながら、家庭では得難い生活体験や遊びを中心とする集団生活の場を通して他者と自己との関係を通じて幼児の自立心や社会性を培うことと、情操面での調和の取れた発達を目的として教育している。
幼児教育の場の確保の必要性や、個別指導の重視を希望するなどの多様な保護者の要望に応えるため、小規模な園を存置する場合においても、幼児同士の相互啓発や軋轢等に指導者が必要以上に関与したり、幼児が指導者の目を意識しない、自由な活動を促し、自主・自立の芽生えを育むため、港区としての小規模園は次のとおりとする。
園規模………二十人程度
全学級数……二学級
学級規模……十人程度
これらの園においては、幼児の関心を家族や園という小さな社会から、子供たちを取り巻く地域社会へと広げていく工夫を行うために、校外学習の機会を多く取り入れたり、他園との合同行事による同年齢児との交流の機会を増やすことや併設の小学校行事への参加を経験することにより、他者との人間関係の広がりを体得させるなどの工夫を進めていく等の配慮が肝要である。
(2)小学校
小学校教育は、生活や学習の基礎的・基本的な能力と態度を育成するため、児童の心身の発達状況に即した教育の展開を目指している。港区としての望ましい学級・学校規模を目指しつつも地域特性や小学校教育の担う役割等を踏まえ、港区としての小規模校は次のとおりとする。
なお、学年が欠ける学校や複式学級を有する学校の存置は認めがたいと言わざるをえない。
学校規模……安定して百人程度が確保できる規模
全学級数……六学級
学級規模……一学級当たり二十人程度が確保できる規模
これらの学校では現在、学年を超えた縦割り集団による授業等の実施や姉妹学級の学内設置を行うことや、合同給食会などの工夫をしている。
また、個々の学校の努力により実施しているスポーツ大会や合同の社会科見学及び演劇・音楽会などの学校間交流等についても、相互啓発や協調の精神を育てることなど、ただ単に席を同じくして合同に実施するのではなく、その意義や教育的効果についても学校間相互に十分検討して実施していく必要がある。
なお、児童が多様な考え方に触れ、相互啓発の機会を増大することを目指し、二校以上が合同でティームティーチングによる授業を行うなど、教育計画に位置づけることも検討する必要がある。
また、個別指導や個別学習の機会が多く持てるなどの小規模校の特性を生かしながら、個に応じた指導を展開する中で「きめ細かな心配り」と「手をかけること」との違いを十分に認識しながら切磋琢磨の機会を増やす方途を検討するなど小学校における教育効果の維持向上を目指していくことが肝要である。
(3)中学校
中学校においては、生徒の能力・適性・興味・関心等の多様化が一層進む時期にあることから生徒一人ひとりの個性を生かす教育の充実が求められている。
中学校は、各教科が教科担任により授業が行われるため校内組織体制や生徒指導の上から少なくとも各学年複数の学級を確保することが必要である。また、生徒の意識の広がりと深まりの可能性を伸ばすために、新しい友人との出会いや学級の編成替えによる生徒相互の関係や、教員と生徒間の人間関係がより重要となる。
これらのことから、港区としての小規模校は次のとおりとする。
学校規模………安定して二百人程度が確保できる規模
全学級数………六学級
小規模校においては、公的な関係と私的な関係が混同され易く、また、人間関係が平板となりやすい。人格形成の重要な時期にある中学生については、これらのことに十分配慮する必要がある。
今後、急速に小規模化が進行する中で専任教員の配置が少なくなり指導体制が弱まるおそれがある。このことにより非常勤講師による対応を余儀なくされることとなり、授業時間外での生徒指導ができない等の問題が生ずる。
このことから、隣接する学校間で複合して正規の専任教員を配置できる等の弾力的な運用ができるよう関係機関に働きかける必要がある。
4 望ましい学校配置と通学区域 〔略〕
Ⅳ 時代に即応した教育環境の整備〔略〕
Ⅴ 取り組むべき課題と方策
本審議会はこれまで区立学校をめぐる今日的状況や将来展望を踏まえる中で、港区の特性に即した学校の規模や配置等についての考え方を述べるとともに時代に即応した教育環境の整備としていくつかの提言をしてきた。
以下は、これまで述べてきた学校の規模や配置等についての考え方を基本として、学校の種類別にそれぞれの取り組むべき課題と方策について述べることとする。
1 幼稚園
幼稚園教育は、心身ともに調和の取れた人間形成を図るうえでの基礎的教育を行うとの観点から、幼児一人ひとりの発達状況に対応するため、含め細かな教育と集団による教育のよりよい効果を発揮させるべく幼児教育を進めていくことが重要である。
そのため、幼稚園の規模として各年齢毎に複数の学級を有し、一学級当たり二十人程度を望ましい規模として、施設設備の整備と併せてその計画的な実現に向けて努力することが望まれる。
しかし、それと併せて、港区の地域特性や幼児人口の分布状況等を勘案し、幼稚園の均衡ある配置をも考慮する必要があり、本審議会で設定した「港区としての小規模幼稚園」の考え方に即した適切な対応が求められる。
さらに、「港区としての小規模幼稚園」に達しない著しく小規模な園については、それぞれの地域の実態を十分に踏まえ、望ましい教育環境の確保のための適切な対応が望まれる。
2 小学校
小学校については、小学校教育の担う役割を踏まえ港区としての望ましい学校規模についての考え方、さらには本区の地域特性に即した「港区としての小規模小学校」についての考え方を述べてきた。
昭和五十九年と昭和六十四年の小学校対象年齢の人口(住民登録者)の推移は十八頁の表-七のとおり、二八%の減少率である。また、その間の区立小学校への就学児童数はこれを上回る二九・三%の減少率となっている。
この就学児童数の地域別推移は十四頁の表-五のとおりである。全体の減少率を上回る地域について見るとA(一)群の新橋、虎ノ門・愛宕、浜松町・芝公園地区の減少率は四四・四%と極めて大きい。
次いでA(二)群の芝地区の三三・〇%及びE群の赤坂・青山地区の三二・八%と減少率が顕著である。
これらの地域においては、区が進めている「まちづくり」による定住人口確保のための施策展開がなされているが、年少人口の減少は著しく、今後とも増加が見込みがたい状況にあると言える。
望ましい教育環境を確保し充実した学校教育を推進していく観点から、小規模校において教育効果を維持していくための様々な創意工夫と努力がなされている。
しかしながら、「港区としての小規模小学校」を著しく下回る小規模校においては、充実した学校教育を推進していくためには限界があると言わざるを得ない。
(1)新橋、虎ノ門・愛宕、浜松町・芝公園地区には、桜田小学校、桜小学校、鞆絵小学校、桜川小学校及び神明小学校の五校が設置されている。
この五校を合わせた児童数は、五百七十名であり、五年前の在籍児童千二十五名に比較すると四四・四%の減少率となる。
また、住民登録上の小学校対象年齢人口で見ても、五年前の千四十五名が六百二十二名と約四〇%の減少となっている。
また、この地域の将来動向については、既に群別の地域特性の中で述べたように、今後とも業務化・商業化の傾向は続き、汐留地区周辺の再開発計画等において定住人口確保のための施策が予定されてはいるが、年少人口は今後とも減少していくものと予想される。
このような将来動向とこの地域全体の人口分布状況などを総合的に勘案するならば、この地域を一つの学区域として再編し、「港区における望ましい学校規模」を安定的に確保していくことが望ましいと考える。しかしながら現時点においては、未だその取り組みのための諸条件は整っていないと判断する。
学校別の状況を見ると表-五のとおり、特に桜田小学校、桜小学校及び鞆絵小学校の三校の児童数の減少は著しく、本審議会で設定した「港区としての小規模小学校」をはるかに下回り、欠学年や複式学級のおそれ、あるいは男女構成の極端な偏りなどが生じており、学校運営上様々な問題を抱えている。
現在、これらの学校においては、それぞれの地域性に配慮しながら学校運営全般にわたり様々な創意工夫を重ねることにより、教育効果の維持に努めてはいるが限界があることは否定できない。
以上のことから本審議会は、将来展望を踏まえつつも、充実した教育環境の確保の観点から、桜田小学校、桜小学校及び鞆絵小学校三校の統合がなされるべきであり、かつ、そのための早急な取り組みが必要と考える。
しかし、これらの小学校は港区としてそれぞれに誇り得る輝かしい歴史と伝統を有している。また、これらの中には過去において統廃合の対象とされた経緯を有する学校もある。
このことを踏まえるならば三校の統合に当たっては、地域の理解と協力を得るための努力はもとより、新しい歴史をともに創るという意識と将来的観点からの対応が肝要である。
(2)芝地区においても児童数は表-五のとおり、五年前と比較して三三%の著しい減少率を示しており、平成元年四月一日を以て竹芝小学校と芝小学校の統合が行われた。
今後、望ましい教育環境の確保のための適切な対応が望まれる。
また、赤坂地区及び麻布地区においても著しく小規模化が進行している学校がある。しかし、この地区における住民登録上の小学校対象年齢人口は一定数を確保しているので、これらの学校については、それぞれの地域における今後の動向を慎重に見守りながら、望ましい教育環境の確保のための適切な対応が望まれる。
なお、その他の小規模な学校についても、それぞれの地域の実態を十分に踏まえ、望ましい教育環境の確保のための適切な対応が望まれる。
3 中学校
中学校についても、他の区立学校と同様、中学校教育の担う役割と、港区としての望ましい学校規模についての考え方、及び本区の地域特性を踏まえ「港区としての小規模中学校」について述べてきた。
昭和五十九年と昭和六十四年の中学校対象年齢人口(住民登録者数)の推移は十八頁の表-七のとおり、二三・一%の減少率である。
また、その間の区立中学校への就学生徒数は、これを上回る三四・〇%の減少率となっている。
今後の児童数の減少と合わせて将来的には、小学校を上回る急激な生徒数の減少が予測される。
就学生徒数の地域別推移を十六頁の表-六で見ると、その地域的差異は著しい。
さらに全体的に区立中学校への就学率が低下している状況の中で、就学率の地域的な差異も大きな要因といえる。
これらの状況の中で、中学校については全科目を専任教員が担当することとなるため、本審議会が「港区としての小規模中学校」として設定した六学級を下回ると教科指導上や生徒指導上で種々の問題が生ずる。
それぞれの学校においては現在も努力している教科指導体制の充実を図るとともに、部活動をはじめとした授業時間外の生徒指導の充実と安定のため地域の有志の人々からの経験や知識を活用するなど地域に根ざした特色ある学校運営を図ることが肝要である。
現在、麻布地区及び芝地区において、全校六学級の中学校が存在している。それぞれの学区域における各年齢別の住民登録人口から中学対象人口を単純推計すると将来、六学級の確保が危ぶまれる事態も予測される。したがって、これらの学校については、それぞれの地域的特性を踏まえ隣接する学区域の動向をも十分見据える中で、望ましい教育環境の確保のための適切な対応が望まれる。
(港区教育委員会資料 平元)
【付記】港区は昭和五十年代後半、業務地化が進行し、定住人口とりわけ年少人口の急激な減少により、区立学校の小規模化が進んだ。そこで教育委員会は次代を担う子供のよりよい教育環境の整備を目指して、昭和六十二年学識経験者、区民代表による「港区立学校適正規模等審議会」を設置した。そして、同審議会は昭和六十三年七月中間答申を、平成元年十二月最終答申を出した。この最終答申がその後の区立学校統廃合の基本的方向付けをする基となった。